遺言執行者の通知義務とは? 通知しなければならない理由や通知の方法を解説
2026/07/28
遺言執行者にはいくつかの義務があります。
民法改正により、遺言執行者の就任時における遺言内容の通知義務を含むいくつかの義務や権限が明文化されました。しかし、実際に業務を進めるに当たっては、すべての相続人にどのように通知すればよいか、また存在を知らなかった相続人や疎遠な相続人にも連絡が必要なのかといった実務上の疑問がつきまといます。
本記事では、遺言執行者の通知義務にまつわる改正後の法令や実務ポイントをわかりやすく解説し、口頭での通知の可否や通知対象者の範囲、そのほか遺言執行者の業務内容をわかりやすく解説します。
目次
そもそも遺言執行者とは
● 遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を実現するため、実際に手続きを進める役割を担う人物です。
遺言者が亡くなった後に、遺言に書かれた内容を実現するため、相続財産の管理や解約、分配、名義変更などの具体的な作業を相続人に代わって行い、相続の円滑な進行を支えます。たとえば、遺言に「不動産は長男に相続させる」「特定の財産を第三者に遺贈する」といった内容が書かれている場合、遺言執行者は、その内容どおりに不動産の名義変更や財産の引渡しといった具体的な手続きを進めていくのです。
大阪市では、相続人が遠方に住むことや、相続財産の内訳が複雑になることも多く、スムーズな遺産の分配のために遺言執行者がいれば便利になるケースが多くなっています。遺言書のなかで誰が執行者となるかを明確に指定しておくことで、後のトラブル防止や相続人間の負担軽減にもつながります。
● 遺言執行者の主な役割
遺言執行者の主な役割は、遺言書の内容を確実に実現することです。具体的には、相続人の調査、遺言内容の通知、そして不動産の名義変更や預貯金の分配、遺贈の実行など、相続手続き全般を担います。これにより、相続人同士の話し合いや相続人全員での手続きが難しい状況でも、速やかに相続手続きを進めることができます。
そのために、遺言執行者は、相続財産の管理または処分その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務をもちます。遺言執行者がいる場合、相続人は遺言の執行を妨げるような行為をすることができず、これに反してされた行為は原則として無効とされます(ただし、事情を知らない第三者との関係では、その無効を主張できない場合もあります)。
● 遺言執行者による相続手続きの特徴
遺言執行者がいる場合の相続手続きの大きな特徴は、相続人全員の実印や印鑑証明書を集めなくても、遺言執行者が単独で各種手続きを進められる場面が多いという点です。特に、相続人以外の第三者への遺贈がある場合、本来であれば受遺者と相続人全員が共同して手続きを行う必要がありますが、遺言執行者がいれば、遺言執行者と受遺者との間で手続きを完結させることができ、他の相続人の協力を得る必要がなくなります。
預貯金の解約・払戻しなど金融機関での手続きにおいては、遺言執行者がいることで各金融機関とのやり取りが一本化され、相続人ごとに個別対応する手間が省ける点も実務上のメリットです。また、複数の金融機関に口座が分散している場合や、相続財産の種類が多岐にわたる場合には、遺言執行者が窓口となって各機関とやり取りを進めることで、相続人がそれぞれ個別に金融機関へ足を運んだり、書類のやり取りをしたりする負担を大きく減らすことができます。
● 遺言執行者がいると相続手続きは楽になる?
結論から言えば、多くの場合、遺言執行者がいることで相続手続きは進めやすくなります。
例えば、相続人が5人、6人と多いケースでは、相続人全員から書類を集めたり、署名押印を依頼したりするだけでも大きな負担になります。その点、遺言執行者が中心となって手続きを進めることで、相続人それぞれが個別に金融機関や法務局へ出向く必要がなくなる場面も少なくありません。
また、相続人同士の関係が良好でない場合でも、中立的な立場の遺言執行者が手続きを担当することで、不要なトラブルを防ぎやすくなります。
特に、司法書士などの専門家が遺言執行者となれば、相続手続きの開始となる戸籍収集から最後の名義変更・預金解約等の手続きまでを一括して依頼できるため、ご遺族の負担を大きく軽減できるでしょう。
● 遺言執行者がいるメリット・デメリット
遺言執行者を置く主なメリットは以下のとおりです。
- 相続人全員の協力が不要になる場面が多い
- 相続人による財産処分などの妨害行為が禁止されて遺言者の意思に沿った財産の承継が実現しやすくなる
- 遺贈や認知など遺言執行者でなければ対応できない手続きにも対応できる
一方でデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 遺言執行者への報酬が発生する場合がある
- 選任した遺言執行者が手続きに不慣れであるなどの理由で手続きが円滑に進まない可能性がある
- 相続人の中には「遺言執行者が財産管理に関与すること」自体に不満を感じる方がいる可能性がある
メリット・デメリットの両方を踏まえたうえで、誰を遺言執行者にするかを検討することが大切です。
特に報酬については、専門家を遺言執行者とする場合、相続財産の額や手続きの内容に応じた報酬が発生するのが一般的です。遺言書の中であらかじめ報酬額や算定方法を定めておくこともできますし、定めがない場合は、遺言執行者が報酬を請求することで、相当と認める報酬額を家庭裁判所が定める仕組みになっています。
遺言執行者の業務の全体像
● 遺言を使った相続手続きの大まかな流れ
それでは、遺言執行者の具体的な仕事をみていきましょう。
遺言が残されている場合の相続では、相続手続きは主に以下のような流れで進みます。
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法務局で保管されていない自筆証書遺言については、遺言の検認
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相続財産の名義変更
遺言執行者は、遺言によって指定されているか、もしくは家庭裁判所での「遺言執行者選任の申立て」で選任されます。そして選ばれた遺言執行者は、この相続手続きを主導して進めていくことになります。
● 遺言執行者の業務の始まり:相続人調査と相続人への通知
とはいえ、「遺言執行者に指定されたから必ず相続手続きをしなければならない」というわけではありません。遺言執行者としての職務は、指定された人が遺言執行者への就任を承諾した時点からスタートします。
こうして就任した遺言執行者がまず着手すべきは、相続人が誰であるかを確定させるための相続人調査です。相続人調査では、「遺言者(被相続人)の出生から死亡までのすべての戸籍」と「相続人の現在の戸籍」を取得し、法定相続人が誰であるかを正確に把握します。この作業を怠ると、後になって把握していなかった相続人の存在が判明し、通知漏れやそれに伴うトラブルにつながるおそれがあるため、慎重に行う必要があります。
相続人が確定したら、遺言執行者は遅滞なく、遺言の内容を相続人全員に通知しなければなりません。これは、遺言執行者として就任した後、相続人を確定したら速やかに行うべき、法律上定められた重要な義務です。この通知義務は重要なものなので、後の章で詳しく解説します。
● 遺言執行者の主な業務である「遺言内容の実行」とは
相続人への通知と並行して、遺言執行者は、遺言の内容を実際に実現していく作業を進めます。具体的には、相続財産の調査、財産目録の作成、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金の解約・払戻しと分配、有価証券の名義変更、そして遺贈がある場合はその履行など、多岐にわたる手続きが含まれます。他にも、遺言による子の認知や相続人の廃除といった法律上の手続きも、遺言執行者の業務に含まれます。
これらの手続きは、遺言の内容や相続財産の種類によって大きく異なりますが、いずれも「遺言者の意思をそのとおりに実現する」という共通の目的のもとで行われます。手続きの過程では、金融機関や役所ごとに求められる書類や手順が異なることも多く、想定以上に時間や手間がかかる場合もあります。
遺言執行者はこのような手続きを正確かつ速やかに行うことが求められます。一方、相続人としては、こうした実務の煩雑さも踏まえたうえで、遺言執行者からの進捗報告を待つ姿勢が求められるでしょう。
● 遺言執行者の業務の終了:相続人への通知と報告
遺言執行者の職務は、遺言に定められたすべての手続きが完了した時点で終了します。職務が終了する際にも、遺言執行者は相続人に対して、執行が完了した旨や、その経過・結果を報告する必要があります。就任時の通知と同様、業務終了時の報告も、相続人との信頼関係を保つうえで欠かせないプロセスです。
すべての手続きが完了した後、遺言執行者としての立場からも離れることになりますが、報告を怠ったまま職務を終えてしまうと、相続人にしてみれば「本当にすべて終わったのか」が分からず、不安が残ってしまいます。最後まで丁寧な報告を行うことが、遺言執行者としての責任を全うすることにつながります。
● 遺言執行者の業務には法律で定められたものも
遺言執行者の業務の中には、単なる実務上の慣行にとどまらず、法律によって明確に義務付けられているものがあります。就任時の相続人への通知義務、相続財産の目録の作成・交付義務、相続人からの請求があった場合の報告義務、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)などが、その代表例です。これらの義務は、遺言執行者に強い権限が与えられていることの裏返しとして、相続人の利益を守るために設けられているものです。
こうした法定の義務を正しく理解しないまま職務にあたると、悪意はなくても結果的に義務違反となってしまうことがあります。
遺言執行者は相続人全員への通知が必要?
● 遺言執行者の通知義務
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないと法律で定められています(民法1007条2項)。これは、単に「相続が発生し、私が遺言執行者に就任しました」という事実を伝えるだけでは足りず、遺言そのものの内容を相続人に知らせる必要がある、という点がポイントです。
相続人からすれば、この通知を受けて初めて、遺言の内容や、自分がどのような立場に置かれているのかを正確に把握できることになります。逆にいえば、この通知がなければ、相続人は自分の権利がどのような影響を受けているのかを知る手段がなく、不利益を被るおそれがあります。通知義務は、遺言執行者の職務の起点であると同時に、相続人の権利を守るための重要な仕組みでもあるのです。
● 相続人全員への通知が必要な理由
この通知は、遺言執行者に指定されている人や、遺言によって財産を受け取る相続人だけでなく、原則として相続人全員に対して行う必要があります。その理由は、遺言執行者が就任すると、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができなくなるためです。つまり、遺言執行者の存在や職務内容は、相続人全員の権利関係に直接影響を及ぼします。
また、遺言の内容によっては、特定の相続人の取り分が減ったり、思いがけない形で財産が分配されたりすることもあります。相続人が自らの権利や不服申立ての機会(遺留分侵害額請求、遺言無効確認請求訴訟など)を適切に検討できるようにするためにも、全相続人への通知は欠かせないプロセスとされています。
仮に一部の相続人にのみ通知を行い、他の相続人への通知を怠ってしまうと、その相続人が自分の権利を検討する機会を失うことになりかねません。後になって「自分だけ知らされていなかった」という不満が生じ、相続人間の紛争に発展するおそれもあるため、通知の対象範囲は慎重に確認する必要があります。
● 通知義務が明文化された背景
かつては、遺言執行者の就任時の通知について、法律上の明文規定はありませんでした。実務上は望ましい対応とされていたものの、義務として明確に定められていなかったため、相続人に何も知らされないまま手続きが進んでしまい、後になって相続人が「知らないうちに財産が処分されていた」といったトラブルに発展するケースも見られました。
こうした背景を受けて、平成30年の相続法改正により、遺言執行者の通知義務が法律上明文化されました。相続人の手続保障や予見可能性を確保し、遺言執行を巡るトラブルを未然に防ぐことが、この改正の狙いです。この改正は、遺言執行者に強い権限を認める一方で、相続人の利益にも十分配慮するという、相続法全体のバランス感覚を反映したものといえます。
● 疎遠な相続人にも通知は必要?
長年連絡を取っていない相続人や、遠方に住んでいる相続人がいる場合でも、通知義務の対象から除外されるわけではありません。原則として、相続人全員に対して通知を行う必要があります。
連絡先が分からない場合であっても、それを理由に通知を省略してよいわけではなく、住民票や戸籍の附票などを取得して現在の住所を調査したうえで、通知を行うのが基本的な対応になります。疎遠であることを理由に通知を怠ると、後になって当該相続人から異議を述べられたり、遺言執行者としての責任を問われたりするおそれがあるため、注意が必要です。
報告を求められたときや業務終了時も通知が必要
● 就任時以外にも通知が必要な場面が
遺言執行者の通知・報告義務が求められるのは、就任時だけではありません。遺言執行者の職務中、相続人から執行状況について報告を求められた場合には、いつでもその経過を報告する義務があります。また、遺言の執行がすべて完了した際にも、相続人に対してその旨と結果を報告する必要があります。
このように、通知・報告義務は、遺言執行者の職務期間全体を通じて生じるものであり、就任時の一度限りで完結するものではない点を理解しておく必要があります。相続人から特に何も言われないからといって、報告を怠ってよいわけではなく、求められればいつでも誠実に応じられるよう、日頃から執行状況を整理しておくことが望ましい姿勢といえます。
● 通知はどのように行う?
通知の方法について、法律上決まった様式が定められているわけではありません。しかし、後日「通知した」「受け取っていない」といった水掛け論になることを避けるため、実務上は書面で通知を行うのが一般的です。特に、相続人間に対立がある場合や、相続財産の内容が複雑な場合には、内容証明郵便を利用して、通知した事実と日付を明確に残しておくことも検討してください。
通知には、遺言の内容が分かるよう、遺言書の写しを添付することが多く見られます。また、遺言執行者には相続財産の目録を作成して相続人へ交付する義務もあるので、就任時の通知にあわせて相続人に送付する形も実務上よく用いられます。
通知文書には、遺言執行者に就任した旨、遺言の内容(または遺言書の写し)、遺言執行者の氏名・連絡先、今後の手続きの概要などを盛り込んでおくと、相続人にとっても状況を把握しやすくなります。大阪市で相続を進める場合、相続人が遠方に住んでいることも珍しくありません。相続人からの問い合わせ先を明記しておくことも、後々のやり取りを円滑にするうえで有効です。
● 通知を怠るとどうなる?
通知義務そのものに違反した場合について、直接の罰則が定められているわけではありません。しかし、通知義務は遺言執行者としての善管注意義務の一内容ととらえる見解もあり、通知を怠ったことによって相続人に損害が生じた場合には、遺言執行者が損害賠償責任を負う可能性があります。
また、通知を怠るなどして相続人との信頼関係が損なわれると、相続人から遺言執行者の解任を家庭裁判所に申し立てられる原因になることもあります。通知義務を軽視することは、遺言執行者自身にとっても大きなリスクを伴う行為だといえます。
● 正しく義務を果たすために
通知義務を確実に履行するためには、就任後できるだけ早い段階で相続人の範囲を確定させ、通知すべき相手方を漏れなく把握することが第一歩です。そのうえで、書面による通知を基本としつつ、内容や状況に応じて書留郵便や内容証明郵便などの方法を選択することが望ましいでしょう。
相続人の人数が多い場合や、相続人間に複雑な事情がある場合には、通知の準備だけでもかなりの手間がかかります。適切に義務を果たしながら円滑に職務を進めるためには、司法書士などの専門家に遺言執行者を依頼する、あるいは相続人自身が遺言執行者となる場合でも、通知の実務について専門家のサポートを受けることが安心につながります。
特に、相続人の中に未成年者や、判断能力に不安のある方が含まれている場合には、通知の宛先や方法について特別な配慮が必要になることもあります。こうした個別事情への対応も含め、通知義務を確実に果たすためには、早めに専門家へ相談しておくことをおすすめします。
まとめ
遺言執行者が通知義務を適切に果たすことは、相続手続きの円滑化と法的安定に直結します。通知を受けた相続人は、自身の権利や手続きの流れを早期に把握でき、安心して相続に臨むことができます。
通知を怠ると、後日「知らされていなかった」と主張され、相続人との紛争に発展し、その結果として相続手続きが長期化するなどのリスクが高まります。さらには通知がないことで相続人の不信感を募らせ、対立が生じるといったことも起こりかねません。相続の円滑な実現とトラブル防止のためにも、遺言執行者は通知義務を厳格に履行することが求められます。
また、相続人から疑問や不安の声があった場合には、迅速かつ誠実に対応することが信頼醸成のポイントです。説明が難しい場合には専門家に依頼して、第三者的な説明や手続きの透明性を確保することで、相続人全員が納得できる円滑な遺言執行につながります。

