相続税の2割加算とは|相続税が高くなる事例を解説
2026/09/04
相続において、「相続税の2割加算」という言葉を耳にしたことはありませんか?
実は、財産を取得した人が誰であるかによって、その人の相続税額に20%相当額が加算される「2割加算」という制度があります。孫や兄弟姉妹への相続・遺贈は、決して珍しいことではありません。それにもかかわらず、この2割加算という仕組みは意外と知られておらず、実際に相続税の申告をする段階になって初めてその存在を知り、想定より税負担が大きいことに驚かれる方も少なくありません。
本記事では、相続税の基本的な仕組みから、2割加算とはどのような制度か、対象となる典型的なケースや注意点、そして2割加算をできるだけ避けるための考え方まで、わかりやすく解説します。
目次
相続税の基本
● そもそも相続税とは
相続税とは、亡くなった方(被相続人)の財産を相続や遺贈によって取得した人に対して課される税金です。財産を取得した人ごとに、取得した財産の額に応じて税額が計算されます。相続税は、一定額以上の財産を取得した場合にのみ課される税金であり、すべての相続で必ず発生するわけではありません。
相続税の計算では、まず遺産全体の総額を算出し、そこから基礎控除額を差し引いた金額をもとに、法定相続分に応じて按分した仮の税額を計算し、その合計額(相続税の総額)を、実際に財産を取得した割合に応じて各人に配分する、という流れをたどります。この記事のテーマである2割加算は、この最後の「各人に配分された税額」に対して適用される仕組みです。
● 相続税がかかる財産
相続税の課税対象となるのは、現金や預貯金、不動産、有価証券といった被相続人が所有していた財産のほか、生命保険金や死亡退職金など、被相続人の死亡を原因として支払われる「みなし相続財産」も含まれます。一方で、被相続人が生前に有していた借金などのマイナスの財産は、プラスの財産から差し引くことができます。
生命保険金や死亡退職金は、受取人が誰かによって取り扱いが変わる点にも注意が必要です。契約内容によっては、法定相続人以外の人が受取人に指定されているケースもあり、その場合、受け取った保険金がそのまま2割加算の対象になり得る点は、後の章であらためて触れます。なお、生命保険金や死亡退職金には、法定相続人の数に応じた非課税枠(500万円×法定相続人の数)が設けられていますが、この非課税枠は、相続人が取得した場合に適用されるものであり、相続人以外の人が受け取った場合には適用されません。
● 相続税の基礎控除
相続税には「基礎控除」という非課税の枠が設けられており、遺産の総額がこの基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で求められ、法定相続人の数が多いほど、基礎控除額も大きくなる仕組みになっています。
たとえば、法定相続人が3人であれば、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となり、遺産総額がこの金額以下であれば、相続税の申告自体が不要になります。この基礎控除額の計算に用いる「法定相続人の数」には、後述する養子縁組の扱いなど、独自のルールが設けられている点にも注意が必要です。
● 相続税の申告・納付期限
相続税がかかる場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告と納税を行う必要があります。この期限に遅れると、加算税や延滞税といった追加の負担が生じるおそれがあるため、早めに財産の把握と税額の試算を進めておくことが大切です。
10か月という期間は、一見すると余裕があるように思えますが、財産の調査、遺産分割協議、必要書類の収集などを一つひとつ進めていくと、決して長い時間ではありません。特に、2割加算の対象となる可能性がある方が財産を取得する場合には、税額の試算が想定より大きくなることもあるため、早い段階で専門家に相談し、資金計画を含めて準備を進めておくことをおすすめします。
相続税の2割加算
● 相続税の2割加算とは
相続税の2割加算とは、相続や遺贈によって財産を取得した人が、被相続人の配偶者や一親等の血族(父母・子)以外の人である場合に、その人が納めるべき相続税額に、さらにその20%相当額を上乗せして課税する制度です。同じ金額の財産を取得しても、取得した人が誰であるかによって、最終的な税負担が変わってくる点が、この制度の大きな特徴です。
たとえば、通常であれば100万円の相続税が課される財産を取得した場合でも、その人が2割加算の対象者であれば、実際に納める税額は120万円になります。財産の分け方を検討する際には、単に金額の多寡だけでなく、誰が取得すると税負担がどう変わるのかまで見据えておくことが大切です。
● 2割加算の対象者
2割加算の対象となる代表的なケースとしては、被相続人の兄弟姉妹、甥・姪、孫(代襲相続人でない場合)、祖父母、そして相続人以外の第三者への遺贈(内縁の配偶者や友人など)が挙げられます。これらの人は、被相続人との関係において「配偶者」にも「一親等の血族」にも当たらないため、2割加算の対象となります。
逆にいえば、被相続人の配偶者、実子、実の父母(および養子)は、2割加算の対象にはなりません。「一親等の血族」という表現だけを見ると分かりにくく感じるかもしれませんが、要は被相続人から見て最も近い世代の親族(親と子)、そして配偶者が対象外というシンプルな枠組みで理解しておくとよいでしょう。
なお、養子については、実子と同様に一親等の血族として扱われるのが原則です。ただし、この記事の後半で取り上げる「孫を養子にした場合」には特別な取り扱いがあるため、養子縁組を検討している方は、この点も含めて正確に理解しておく必要があります。
● 2割加算の制度がある理由
この制度が設けられている背景には、大きく2つの考え方があります。
1つは、被相続人の配偶者や子といった、通常最も近い関係にある人以外が財産を取得する場合には、偶発的な財産承継としての性格が強いことから、一定程度重く課税するという考え方です。
もう1つは、本来であれば「親から子」「子から孫」と2段階で発生するはずの相続税を、祖父から孫へ直接財産を移すことで1段階に圧縮し、結果的に相続税の負担を軽減しようとする、いわゆる「世代飛ばし」への対応という趣旨です。孫が財産を直接取得すれば、通常であれば子の代で発生するはずの相続税をいったん経ずに、財産を次の世代に移すことができてしまいます。2割加算は、こうした課税機会の減少を補うための調整という側面を持っており、単なる罰則的な意味合いだけでなく、税負担の公平性を保つための仕組みとして理解しておくとよいでしょう。
2割加算の注意点
● 「孫養子」は2割加算の対象?
祖父母が孫を養子にする「孫養子」は、相続税対策として利用されることがありますが、税務上は注意が必要です。
孫を養子にした場合、その孫養子は法定相続人としての地位を得ますが、後述する代襲相続人に該当しない限り、2割加算の対象になります。これは、養子縁組によって世代を1つ飛ばして財産を移転させることへの対応として設けられている取り扱いです。「養子にすれば2割加算を避けられる」という単純な話ではない点に注意しましょう。
孫養子には、法定相続人の数が増えることで基礎控除額が大きくなる、生命保険金の非課税枠が増えるといったメリットもあり、相続税対策の一つとして知られている手法です。しかし、2割加算の対象になるという税務上のデメリットもあわせ持つため、養子縁組を検討する際は、メリットとデメリットの両方を踏まえたうえで判断する必要があります。
● 代襲相続と2割加算
被相続人の子がすでに亡くなっているために、孫が代襲相続人として相続人になっている場合は、その孫は2割加算の対象にはなりません。代襲相続人となった孫は、亡くなった親(被相続人の子)の地位をそのまま引き継ぐものと位置づけられているため、たとえ養子であっても、2割加算の適用対象からは除外されます。同じ「孫が財産を取得する」場面でも、代襲相続人としてなのか、それとも孫養子としてなのかによって、税負担が大きく異なる可能性がある点は、しっかり押さえておきたいポイントです。
実務上、この違いを正確に理解しないまま「孫だから2割加算になるはずだ」あるいは「孫だから2割加算にはならないはずだ」と思い込んでしまうケースも見受けられます。孫が財産を取得する場合には、その孫が代襲相続人としての立場にあるのか、それとも養子縁組による相続人なのかを、まず正確に確認することが出発点になります。
● 相続放棄と2割加算
相続放棄をした人であっても、遺言によって遺贈を受けるなどの形で財産を取得することは可能です。この場合、2割加算の対象となるかどうかは、相続放棄をしたかどうかにかかわらず、被相続人との実際の親族関係(一親等の血族か配偶者か)によって判定されます。相続放棄をしても、被相続人の子であるという身分関係自体が変わるわけではないため、一親等の血族であれば、遺贈を受けた場合でも2割加算の対象にはなりません。
この点は、「相続放棄をしたら相続人ではなくなるのだから、2割加算の対象になってしまうのではないか」と誤解されやすい部分です。2割加算の判定は、あくまで相続人としての法的地位ではなく、被相続人との親族関係そのものに着目して行われる、という点を正しく理解しておきましょう。
● 生前贈与と2割加算
相続開始前の一定期間内(現在は段階的に7年へ延長されています)に行われた贈与や、相続時精算課税制度を利用した贈与については、その財産が相続税の課税価格に加算される仕組みがあります。この場合、贈与を受けた人が2割加算の対象者(孫など)であれば、相続税の課税価格に加算される贈与財産の部分についても、2割加算が適用されることになります。生前贈与を行う際には、贈与を受ける人が将来的に2割加算の対象となるかどうかも、あわせて意識しておく必要があります。
一方で、加算の対象とならない時期に行われた贈与や、暦年贈与のうち相続税の課税価格に加算されない部分については、2割加算の影響を受けません。生前贈与の計画を立てる際には、単に贈与税の負担だけでなく、将来の相続税、そして2割加算の可能性まで見据えて、総合的に検討することが望ましいでしょう。
2割加算を避けるには?
● 財産の渡し方を工夫する
2割加算は、財産を取得する人が誰であるかによって生じる制度であるため、財産の渡し方を工夫することで、結果的に2割加算を避けられる場合があります。
たとえば、相続税の課税関係を確認したうえで生命保険金の受取人を2割加算の対象とならない配偶者や子に設定しておく、遺言の内容を見直して孫や兄弟姉妹への遺贈の割合を調整する、といった方法が考えられます。財産全体の分け方を検討する段階から、誰が2割加算の対象になるのかを意識しておくことが、結果的に相続人全体の税負担を抑えることにつながります。
また、代襲相続人となる可能性がある孫がいる場合には、あえて養子縁組をせずとも、代襲相続によって2割加算を回避できることもあります。すでに養子縁組を検討している場合でも、代襲相続の可能性がないかどうかを確認したうえで、本当に養子縁組が必要かどうかを見極めることが大切です。
● 生前贈与はお早めに
生前贈与は、相続税の2割加算とは別の制度(贈与税)として扱われるため、贈与そのものには2割加算は適用されません。ただし、前述のとおり、相続開始前の一定期間内の贈与や相続時精算課税による贈与は、相続税の課税価格に加算され、その部分について2割加算が生じることがあります。この点を踏まえると、孫などへの生前贈与を検討する場合には、できるだけ早い段階から計画的に進めておくことが、結果的に2割加算の影響を抑えることにつながります。
孫への資産承継を検討している方は、「まだ元気だから」と先延ばしにせず、早い段階から専門家に相談しながら、計画的に贈与を進めていくことをおすすめします。
● そもそも避けなくてよいケースも
2割加算という言葉だけを見ると、できる限り避けるべきもののように感じられるかもしれません。しかし、2割加算が生じたとしても、そもそも財産を渡したい相手に確実に財産を残せるということ自体に大きな意味がある場合も少なくありません。税負担を抑えることだけを目的に、本来の希望とは異なる財産の渡し方を選んでしまうと、かえって望まない結果を招くこともあります。2割加算の有無だけでなく、ご自身やご家族にとって何を優先したいのかを踏まえたうえで、総合的に判断することが大切です。
たとえば、お世話になった孫や、頼れる親族がいない中で身の回りの世話をしてくれた甥・姪に財産を残したい、というご意向がある場合、多少の2割加算が生じたとしても、その方に確実に財産を渡せることの方が重要である、という判断も十分にあり得ます。税負担の大小だけにとらわれず、財産を通じて何を実現したいのかを軸に考えることが、後悔のない相続につながります。
まとめ
相続税の2割加算は、被相続人の配偶者や一親等の血族以外の人が財産を取得した場合に、相続税額が20%上乗せされる制度です。孫養子や兄弟姉妹への遺贈など、身近に起こり得る場面でも適用される可能性があるため、誰が財産を取得するのかをあらかじめ整理しておくことが重要です。一方で、代襲相続人となった孫のように、2割加算の対象外となるケースもあり、状況によって扱いが異なる点にも注意が必要です。
生命保険金の受取人設定や、生前贈与のタイミング、遺言の内容など、2割加算に影響する要素は多岐にわたります。ご自身の家族構成や資産状況を踏まえて、どのような対策が可能か、あるいはそもそも対策が必要なのかを、早めに検討しておくことをおすすめします。
「孫に財産を残したいが、税金がどのくらい変わるのか分からない」「養子縁組を検討しているが、相続税への影響が気になる」といったお悩みをお持ちの方は、税理士などの専門家にご相談ください。

