相続財産清算人はいつ必要? 役割や選任手続きを解説
2026/02/10
「相続財産清算人」という言葉をご存じでしょうか?
相続の場面において、相続人が存在しない、もしくは全員が相続放棄をした場合には、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が相続財産の清算を進めることになります。しかし、相続財産清算人についてはあまりよく知られておらず、具体的な手続きの流れや費用など、不安を抱く方も多くいらっしゃいます。
本記事では、相続財産清算人とは何か、その職務の詳細や具体的な手続きの流れについて分かりやすく解説します。
目次
相続財産清算人とは
● 相続財産清算人とは
相続財産清算人とは、相続人がいるか明らかでない場合に家庭裁判所が選任する、亡くなった方(被相続人)の遺産を管理・清算する役割を担う人です。大阪市では人口規模の大きさや家族関係の多様化から、相続財産清算人が必要となるケースも少なくありません。
「相続人がいるか明らかでない場合」とは、具体的には、相続人が存在しない場合や全員が相続放棄した場合を指します。このような場合、相続財産は債権者や特別縁故者に分配され、最終的には国庫に帰属します。しかし、相続人がいないので、この手続きを行う権限をもつ人を用意する必要があるのです。
相続財産清算人としては弁護士や司法書士といった専門家が選ばれることが多くなっています。そしてその職務としては、財産の調査・管理から債権者への弁済、遺贈の実施、特別縁故者への財産分与、最終的に残余財産を国庫に帰属させる手続きまで多岐にわたります。たとえば、相続財産に不動産が含まれる場合は、不動産の鑑定や売却、登記などの専門的な手続きが求められるのです。
● 相続財産清算人が必要となる理由
相続財産清算人が必要となる理由は、相続人がいない、または全員が相続放棄した場合に、残された財産の管理や債務の清算を行う必要が生じるためです。大阪市でも高齢化や単身世帯の増加により、こうした状況が増えています。
相続人が存在しない場合、財産が放置されると不動産や預貯金が管理されず、地域社会や債権者に不利益が及ぶおそれがあります。具体的には、空き家となった不動産の管理不全が地域の安全や衛生問題につながることもあるでしょう。
このようなリスクを防ぐため、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、適切な財産管理・清算を行うことで、トラブルや損失の拡大を防ぐことができるのです。
● 相続財産清算人の役割
相続財産清算人は、相続財産の管理や清算を行います。
具体的な業務の例は以下のとおりです。
- 相続財産や負債の調査
- 相続財産の管理、評価、換価処分
- 相続人や債権者の捜索
- 債務の弁済
- 遺言の実施(受遺者への弁済)
- 残財産について、国庫への帰属手続き
このような役割を果たすために、相続財産清算人には相続財産に関する様々な権限が与えられます。具体的には、預金口座の解約や不動産を含む各種財産の処分、建物等の管理などの権限です。一部の行為には家庭裁判所の許可が必要ですが、基本的な保管行為や調査行為は、独自に行うことが可能です。
● 相続財産清算人が活用される具体的な事例
相続財産清算人は、相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合において、被相続人の財産の調査・管理を行います。
相続財産清算人が活用されるケースの代表例は、以下のとおりです。
- 被相続人にお金を貸していたり、費用を立て替えていたりした債権者
- 被相続人と特別の縁故があり、財産の分与を請求したい人(特別縁故者)
- 被相続人の遺言によって財産を遺されていた人(受遺者)
- 被相続人と財産を共有していた人
- 相続放棄をしたものの、財産を管理する義務のある人
- 空き家が放置されていて困っている自治体の長(市区町村長)
なお、相続財産清算人の選任を申し立てることができるのは、利害関係人と検察官に限られます。
利害関係人とは、上記の例における債権者や特別縁故者、受遺者、共有者、相続放棄者、市区町村長等です。要するに、「相続財産管理人に仕事をしてもらわないと困る」人が申し立てることになります。これらの人々が申立てを行い、裁判所が相続財産清算人を選任します。選任後は、公告や財産分配の手続きにおいて、すべての利害関係者の権利保護が図られるのです。
相続財産清算人選任の際に気をつけること
● 相続財産清算人が選任されないケース
相続財産清算人の選任を申し立てたとしても、以下のような場合には、清算人は選任されません。
- 後から相続人が見つかった
- 連絡がつかなかった相続人と連絡がついた
- 管理すべき遺産がない
- 予納金等の費用を納付できなかった
予納金については後述しますが、相続財産清算人の選任を申し立てると、清算人への報酬の支払いや財産管理にかかる経費を保全するために、予納金の納付を命じられることがあります。この予納金はおよそ十万円から最大で百万円に至ることもあるため、裁判所の指示に従って、期限内に納付しなければなりません。
納付できずに期限を過ぎてしまうと、申立ては取下げまたは却下されます。
● 財産が少なければ費用が回収できないおそれも
相続財産清算人は、債権や立替金、遺贈の請求のために選任されることもあります。しかし、このような費用は相続財産のなかから支払われるため、「財産調査をしたら想像より少なかった」「不動産の資産価値がなかった」など、思ったとおりに回収できないこともあるので注意が必要です。
さらに、清算人の選任にあたっては上記のとおり予納金を納付しなければなりませんが、この予納金も相続財産のなかから返金されます。そのため、手続きを経て財産が残らなかったら、予納金が返ってこず、費用倒れになってしまうことも。
このように、相続財産清算人選任申立ての際には、費用と得られるメリットを事前によく比較検討する必要があるのです。
● 旧制度である相続財産管理人との違い
従来は、このような相続財産清算人の役割を「相続財産管理人」が行っていました。しかし、令和3年の民法改正によって、「相続財産管理人」が「相続財産管理人と相続財産清算人」に分離され、それぞれの役割が明確に区分されました。
相続財産清算人の業務についてはすでに解説したとおりですが、相続財産管理人の役割は、以下のとおり変化しています。
【相続財産管理人の役割】
従来:相続財産の保存・管理・清算を行う(現在の相続財産清算人の役割)
現在:相続人は存在するが管理は不適切な場合に、その財産を保存・管理する
よく似た役割ではありますが、相続財産清算人は、従来の相続財産管理人よりもより財産の「清算」に特化した役割といえるでしょう。
相続財産清算人選任までの流れ
● 相続財産清算人選任までの流れ
次に、具体的に相続財産清算人を選任するまでの流れをみていきます。
清算人を選任するまでの流れは以下のとおりです。
- 申立てに必要な書類を準備する
- 管轄の家庭裁判所に申し立てる
- 相続財産清算人選任の審判がおりる
以下に、各ステップの詳細を解説します。
● ステップ1:申立てに必要な書類を準備する
相続財産清算人の選任は、相続財産が存在するにも関わらず相続人がいない、または全員が相続放棄をした場合に、利害関係人または検察官が家庭裁判所に申立てることで始まります。
申立てのために必要な書類は以下のとおりです。
- 申立書
- 相続人がいないことがわかる戸籍謄本一式(被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、被相続人の祖父母の死亡の記載のある戸籍謄本、被相続人の兄弟姉妹が死亡している場合にはその兄弟姉妹の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 など)
- 財産目録
- 収入印紙800円分
- 郵便切手(管轄の裁判所によって異なる)
- 官報公告料(5,582円)
→ 裁判所の指示があってから納めます。 - 予納金(およそ十万円から百万円程度)
→ 裁判所の指示があってから納めます。
必要書類については家庭裁判所のホームページに案内があるので、事前によく確認しましょう。
また、戸籍については、役所が認める一定の利害関係人でなければ取得することができません。取得できなかった場合には、申立後に追加提出するほか、専門家に依頼して職務上請求をしてもらうことで集めることもできます。
● ステップ2:管轄の家庭裁判所に申し立てる
書類が準備できたら、管轄となる家庭裁判所に提出します。管轄となる家庭裁判所は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」であり、被相続人の最後の住所が大阪市であれば大阪家庭裁判所が管轄となります。
提出の前には、書類の不備がないかをよく確認するほか、申立ての前提条件(申立人が利害関係人であること・相続人の有無がわからないこと・管理や清算をすべき相続財産が存在すること)を満たしているかをしっかりと確認してください。
また、申立後、予納金の納付を命じられることがあります。
予納金とは、相続財産清算人が仕事を進める際に必要な経費や、相続財産清算人の報酬を支払うための担保のようなお金です。予納金の有無や金額は事案によって異なり、相続財産に現預金が多い場合など、こういった経費が容易に支払えそうであれば、支払わずに済むこともあります。しかし、財産に不動産などの管理負担が大きいものが含まれる場合や、財産が少ない場合には、予納金の納付を求められることが通常です。
予納金の金額は、十万円から百万円に及ぶこともあります。予納金の納付には期限が設けられており、原則として申立てから1か月後に支払わなければなりませんので、すぐに納められるよう、あらかじめ準備しておきましょう。
● ステップ3:相続財産清算人選任の審判がおりる
裁判所で無事に審査が終わると、相続財産清算人が選任され、相続財産清算人選任の審判書が届きます。
相続財産清算人となる人には特に資格などはありませんが、一般的には弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。ただし、管理する財産が少ない場合や関係者が限られている場合(例:何十年も前に亡くなった人の名義になっている建物を解体したい場合)などには、申立人が清算人となることもあります。申立人が清算人になることを希望する際には、申立書に「候補者」として記載しておきましょう。
相続財産清算人選任後の流れ
● 相続財産清算人選任後の流れ
相続財産清算人が選任されたら、以下のような手続きに進みます。
- 相続財産の調査
- 相続人や債権者を捜索するための公告
- 債権者や受遺者への支払い
- 特別縁故者への財産分与
- 共有者への帰属
- 国庫への帰属
おおまかには「調査→弁済→国庫帰属」というシンプルな流れです。しかし、手続きの進行中に新たな債権者や利害関係人が現れることもありますし、必要に応じて裁判所に報告して許可を得る必要が生じることもあるので、専門性が高く、法的・実務的な知識が不可欠な仕事だといえるでしょう。
以下に、各ステップの詳細を解説します。
● ステップ1:相続財産の調査
相続財産清算人は、最初に相続財産の調査を行い、その管理を開始します。
具体的には、申立書の記載内容や申立人への聴き取りから財産を把握するほか、役所や法務局、各金融機関へ問い合わせて財産を調査します。調査した内容は、財産目録にまとめて裁判所へ報告します。
不動産については、鍵を預かり、名義を相続財産法人へ変更します。そして適宜修繕や保存に必要な行為を行い、保管の難しい不動産・株式・動産等については換価処分するなど、財産の価値を維持しつつ管理がしやすいように整え、清算の準備を進めるのです。
● ステップ2:相続人や債権者を捜索するための公告
一方、家庭裁判所は、相続財産清算人を選任した後、すぐに「相続財産清算人が選任された旨」と「相続人がいれば申し出てほしい旨」を公告します(選任公告)。この公告は、官報に掲載する方法で行われます。
この時点で戸籍の調査は完了しているので、通常相続人が現れることはありませんが、万が一この公告によって相続人が現れた場合には、相続財産清算人の職務は終了します。
この公告は、6か月以上の期間を定めて行われます。つまり、清算手続きには必ず半年以上かかるので、注意してください。
そして同時に、「相続財産へ何かしら請求できる債権のある債権者がいれば申し出て欲しい旨」も公告し、被相続人の債権者や、遺言によって財産を受け取る権利がある受遺者を探します(相続債権者・受遺者への公告)。この公告は、2か月以上の期間を定めて行われます。
この公告で名乗り出なかった債権者や受遺者は、相続財産に対して請求する権利を失います。ただし、相続財産清算人が既に把握している債権者等については、個別に申し出るよう催告が行われます。
● ステップ3:債権者や受遺者への支払い
公告期間が終了したら、相続財産清算人は、ステップ2で見つかった債権者や受遺者に対して、相続財産から支払いをしていきます。
この支払いは、一般的に、「優先権のある債権者(抵当権や質権を設定していた債権者等)→通常の債権者→受遺者」の順で行われます。
現預金で支払うことができなければ、相続財産清算人は、必要に応じて相続財産を競売にかけるなどの方法で換価処分していきます。そして順に支払っていき、相続財産がなくなり次第、清算を終了します。
● ステップ4:特別縁故者への財産分与
債権者や受遺者への支払いが終わってもなお財産が残っていたら、次に、特別縁故者や共有者への財産分与へ進みます。
特別縁故者とは、相続人がいない場合において、被相続人と特別な関係があったと裁判上認められた人を指します。具体的には、内縁の配偶者や生前に被相続人と同居していた人、療養看護に尽力した人、その他特別な縁故があると認められる人が該当します。
特別縁故者として財産分与を求める人は、相続人捜索の公告が終わった後3か月以内に、家庭裁判所に申し出ます。その後、家庭裁判所で証拠や証言に基づく審査が行われ、客観的な視点から「特別縁故者」だと認められた場合には、残余財産の一部または全部の分配を受けることができます。
● ステップ5:共有者への帰属
特別縁故者がいない場合、または特別縁故者に分与をしてもなお財産が残っていた場合には、相続財産の共有者がいないか確認します。
たとえば、この段階で相続財産のなかに不動産が残っていたとして、その不動産が被相続人と第三者の共有となっていた場合、その共有者は、被相続人の持分を受け取ることができるのです。
● ステップ6:国庫への帰属
こうして最後まで残っていた財産については、最終的に国庫に帰属することになります。
ここまでたどり着いて、ようやく相続財産清算人の職務は終了です。
まとめ
相続財産清算人とは、相続人が存在しない、または全員が相続放棄した場合に、家庭裁判所が選任する相続財産の管理者です。清算人は、被相続人が残した財産の調査、債権者への弁済、特別縁故者への分与、残余財産の国庫帰属までを一貫して担当します。大阪市を含む全国で同様の制度が採用されていますが、とりわけ人口が多い都市部では特に注目されやすい制度です。
この制度は、相続財産が放置されることで生じるトラブルや、利害関係者の不利益を防ぐために設けられています。相続財産清算人の選任は、利害関係人(たとえば債権者や不動産の共有者、特別縁故者)や検察官が大阪家庭裁判所に申立てを行うことで始まり、裁判所が適任者を選任します。実務では弁護士や司法書士など、法的知識と経験を持つ専門家が多く選ばれています。
この申立てにおいて、不明点やトラブルが生じた場合は、早めに専門家へ相談することが、スムーズな解決への近道です。実務の流れを正しく理解し、ミスや遅延を防ぐことが重要です。

