不動産売却時の譲渡所得税とは? みなし譲渡についても解説
2026/08/28
不動産を売却すると、利益が出た場合には「譲渡所得」が発生することがあります。
譲渡所得は、不動産を売却するほとんどの方に関係する可能性のある仕組みであるにもかかわらず、その詳細は意外と知られていません。特に、相続した不動産を売却する場合には、取得費の考え方や特例の適用要件など、通常の売却とは異なるポイントも多く存在します。
本記事では、不動産を売却したときの譲渡所得の基本的な仕組みから、みなし譲渡課税の内容、注意しておきたいポイントや活用できる制度、申告の方法まで、わかりやすく解説します。
目次
譲渡所得とは?
● そもそも譲渡所得とは
譲渡所得とは、土地や建物、株式などの資産を売却(=譲渡)したことによって得られる所得のことをいいます。売却代金そのものが所得になるわけではなく、売却代金から、その資産を取得するためにかかった費用や、売却のためにかかった費用を差し引いた「利益」の部分についてのみ、譲渡所得として課税の対象になり、住民税や所得税が増えることがあります。
たとえば、以前に3,000万円で購入した土地を5,000万円で売却できた場合、単純に考えれば差額の2,000万円が利益ということになりますが、実際にはこれに購入・売却それぞれにかかった諸費用や、各種特例・控除などが適用できるか否かを加味して、課税対象となる譲渡所得の金額が計算されます。
● 譲渡所得税の基本的な仕組み
前述のとおり、譲渡所得が生じると、住民税や所得税が増えることがあります。こうして増えた税金を一般的に「譲渡所得税」と呼びますが、あくまで所得が増えた結果として納める税金が増えたのであり、譲渡所得税という名前の税金はない点に注意してください。
不動産や株式などの譲渡による譲渡所得は分離課税され、給与所得や事業所得などとは別に計算される仕組みになっています。一方、貴金属、会員権などの譲渡による譲渡所得は総合課税となり、税額の計算方法が異なります。
不動産や株式などの譲渡所得は分離課税という仕組みのため、給与所得が多い方でも、不動産の売却によって高い税率が一律に適用されるわけではなく、あくまで譲渡所得の金額に応じて税額が決まります。この点は、他の所得と合算して税率が決まる総合課税とは異なる、譲渡所得ならではの特徴です。
● 譲渡所得の対象となる資産
譲渡所得は、不動産(土地・建物)、株式、宝石や貴金属、ゴルフ会員権などを売却した場合に発生します。
他にも、船舶や自動車についても、購入したときよりも高値で売れるなど、一定の場合には譲渡所得が発生することがありますし、借地権や特許権、著作権などの目に見えない権利の売却も対象となります。
● 譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、次の計算式で求められます。
譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
譲渡価額(売却代金)から、取得費と譲渡費用を差し引き、さらに該当する特別控除があればそれも差し引いた金額が、課税対象となる譲渡所得です。
取得費とは、購入代金など、譲渡したものを取得するためにかかった費用です。なお、相続や贈与によって取得した不動産の場合、被相続人・贈与者が取得した際の取得費や取得時期をそのまま引き継ぐのが原則です。つまり、相続で取得した不動産を売却する際には、被相続人がその不動産をいつ、いくらで取得したのかという情報が重要になります。古い売買契約書などが残っていないか、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
そして譲渡費用とは、売却するために直接かかった費用です。
これらの費用は、譲渡所得を計算するうえで譲渡価額から差し引くことができるため、領収書や契約書などをきちんと保管しておくことが大切です。特に、仲介手数料や取り壊し費用は金額が大きくなりやすく、計上漏れがあると譲渡所得の金額、ひいては税額に大きな差が生じてしまいます。
不動産売却時の譲渡所得
● 不動産の譲渡所得の特徴
譲渡所得の概要を紹介したところで、続いて不動産を譲渡した際の譲渡所得の特徴をみていきましょう。
不動産の譲渡所得を考える際には、取得費と譲渡費用が大きくなりやすいので、あらかじめその範囲を把握しておくことが大切です。
たとえば、取得費については不動産の購入代金(建物については、購入代金からその後の経年による減価償却費相当額を差し引いた金額)のほか、購入時の仲介手数料、登録免許税、不動産取得税など、取得に関連して支出した一定の費用が含まれます。そして譲渡費用については、売却時の仲介手数料、売買契約書に貼付する印紙税、売却のために行った測量費用、更地にして売却するための建物取り壊し費用などが該当します。
これらの費用を支払ったことの証拠となる領収書や売買契約書は、きちんと残しておきたいところです。
● 短期譲渡・長期譲渡で税率が異なる
不動産の譲渡所得では、その不動産をどのくらいの期間所有していたかも重要です。
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年を超える場合は「長期譲渡所得」として区分され、短期譲渡所得の方が高い税率が適用されます。長期間保有してから売却した方が、税負担が軽くなる仕組みになっています。
相続で取得した不動産の場合、所有期間は相続人が取得した時点からではなく、被相続人が取得した時点から通算して計算されます。そのため、被相続人が長期間所有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても、長期譲渡所得として扱われることが多く、この点も相続不動産を売却する際に押さえておきたいポイントです。
● マイホームを売ったときの特別控除
自分が住んでいた不動産(マイホーム)を売却した場合には、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。これを「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。この特例が適用できれば、譲渡所得が大幅に圧縮され、譲渡所得税がかからなくなるケースも少なくありません。
この特例は、実際にその家屋に住んでいたことが前提となるため、投資用物件や、居住していない別荘などには適用されません。また、譲渡した相手が親族など特別な関係にある人である場合には、適用が制限されることもあります。マイホームの売却を検討する際は、こうした適用要件をあらかじめ確認しておくことが大切です。
みなし譲渡課税(みなし譲渡所得税)とは?
● みなし譲渡とは
通常、譲渡所得は、土地や建物などの資産を売却するなどして、対価を得た場合に生じます。しかし、税法上、一定の場合には、実際に受け取った対価の有無や金額にかかわらず、資産を時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得を計算することがあります。これを「みなし譲渡」といいます。
「実際には売っていないのに、なぜ譲渡所得が発生するの?」と思われるかもしれません。みなし譲渡課税は、含み益のある財産が、課税されないまま他者や法人へ移転することを防ぐための仕組みです。財産の値上がりによって生じた利益について、一定のタイミングで譲渡所得として課税するという考え方に基づいています。
● みなし譲渡が生じる主な場面
みなし譲渡課税が生じる代表的な場面としては、限定承認に係る相続や包括遺贈があった場合、法人に対して財産を贈与・遺贈した場合、法人に対して著しく低い価額で財産を譲渡した場合などが挙げられます。これらの場合、実際の対価にかかわらず、時価を基準として譲渡所得が計算されます。
これに対して、個人から個人への贈与や、通常の単純承認による相続の場合には、みなし譲渡課税は生じません。この場合は、取得費や取得時期がそのまま次の所有者に引き継がれ、実際にその不動産が売却されるタイミングで、初めて譲渡所得課税がまとめて行われることになります。同じ「財産が移転する場面」でも、相手が法人か個人か、また相続の承認方法によって、課税のタイミングが大きく異なる点に注意が必要です。
● 相続・限定承認とみなし譲渡の関係
個人が相続や贈与によって不動産を取得する場合、通常は譲渡所得課税は生じず、取得費や取得時期を引き継ぐだけで済みます。しかし、相続において限定承認を選択した場合は例外で、被相続人が相続開始時に相続財産を時価で譲渡したものとみなされ、含み益のある財産については、被相続人に譲渡所得が生じることになります。単純承認や相続放棄では生じないこの課税が、限定承認を選んだことによって新たに発生する可能性がある点は、見落とされがちな注意点です。
限定承認は、プラスの財産の範囲内でしか債務を負わないという大きなメリットがある一方で、このみなし譲渡課税という税務上の負担が生じる可能性があるという点も、あわせて理解しておく必要があります。限定承認を検討する際は、法律面だけでなく、税務面への影響も含めて総合的に判断することが大切です。
● みなし譲渡課税の申告義務者
みなし譲渡課税は、被相続人の所得として扱われるため、相続人が被相続人に代わって準確定申告という形で申告・納税を行う必要があります。準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行わなければならず、通常の確定申告とは期限が異なる点に注意が必要です。
相続人が複数いる場合、準確定申告は原則として相続人全員が連署して行うか、各相続人が個別に申告する形になります。限定承認の手続き自体も相続人全員の合意のもとで進められるものであるため、税務面の対応についても、相続人間で連携を取りながら進めていくことが望ましいでしょう。心配があれば、税理士への相談をおすすめします。
譲渡所得の注意点・活用したい制度
● 取得費がわからない場合の概算取得費
古い不動産の場合、購入時の契約書や領収書が残っておらず、取得費がわからないというケースも少なくありません。このような場合には、譲渡価額の5%相当額を取得費とみなす「概算取得費」を用いることができます。ただし、実際の取得費の方が高い場合には、実額で計算した方が税負担を抑えられることもあるため、可能な限り資料を探しておくことが望ましいでしょう。
特に、先祖代々受け継いできたような土地では、そもそも購入した記録自体が残っていないことも珍しくありません。このような場合、概算取得費を使わざるを得ず、実際の取得費よりも低い金額で計算されてしまうことで、譲渡所得税の負担が重くなってしまう可能性があります。
また、実際の取得費を調べた結果、譲渡価額の5%相当額よりも高いことがわかれば、実際の取得費を用いた方が有利になる場合があります。
相続した不動産をお持ちの方は、早めに取得時期を確認し、取得費に関する資料の有無を確認しておくことをおすすめします。
● 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
相続によって取得した不動産を、一定期間内(相続税の申告期限の翌日から3年以内)に売却した場合には、支払った相続税額のうち、その不動産に対応する一定額を取得費に加算できる特例があります。これを「取得費加算の特例」といいます。この特例を利用すると、譲渡所得が圧縮され、税負担を軽減できる可能性があります。
相続税を納めた上に、不動産の売却でも高額な譲渡所得税がかかってしまうと、相続人にとって二重の負担感が生じかねません。この特例は、こうした負担を一定程度緩和するために設けられているものであり、相続税の申告期限の翌日から3年という期間制限があるため、売却のタイミングを検討する際には、この特例の適用可否もあわせて考慮しておくとよいでしょう。
● 空き家特例
被相続人が一人で住んでいた家屋とその敷地を、相続人が相続によって取得し、一定の要件のもとで売却した場合には、譲渡所得から最大3,000万円(相続人が3人以上である場合など一定の場合には最大2,000万円)を控除できる特例(いわゆる「空き家特例」)が設けられています。空き家の増加が社会問題となる中、こうした特例の活用も、相続した実家の売却を検討する際の重要なポイントになります。
この特例の適用を受けるには、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建物でないこと、売却時に一定の耐震基準を満たしているか、あるいは取り壊して更地として売却することなど、細かな要件が定められています。要件を満たすかどうかの判断が難しいケースも多いため、実家の売却を検討する段階で、早めに確認しておくことをおすすめします。
譲渡所得の申告
● 確定申告が必要なケース
不動産を売却して譲渡所得が生じた場合、原則として確定申告が必要です。給与所得者であっても、不動産の売却益がある場合には、年末調整だけでは完結せず、別途確定申告を行う必要があります。特別控除の適用によって最終的な納税額がゼロになる場合であっても、その特例の適用を受けるためには申告が必要となる点に注意しましょう。
「税金がかからないなら申告しなくてもよいのでは」と誤解されがちですが、マイホームの3,000万円控除や空き家特例などは、いずれも確定申告をして初めて適用される特例です。申告をしなければ、特例が適用されないまま、本来より高い税額で計算されてしまう可能性もあるため、必ず申告を行うようにしましょう。
● 申告期間・申告先
確定申告は、不動産を売却した年の翌年、原則として2月16日から3月15日までの間に行います。申告先は、自分の住所地を管轄する税務署です。前述の準確定申告(みなし譲渡の場合)は、これとは別に、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内という独自の期限が定められています。
同じ「相続に関連する不動産の売却」であっても、通常の売却であれば翌年2〜3月の確定申告、限定承認によるみなし譲渡であれば相続開始から4か月以内の準確定申告と、申告のタイミングが大きく異なります。どちらのケースに該当するのかを早い段階で見極め、申告期限を見誤らないようにすることが重要です。
● 必要書類
確定申告にあたっては、不動産の売買契約書(購入時・売却時双方)、取得費や譲渡費用がわかる領収書、登記事項証明書、譲渡所得の内訳書などの書類が必要となることがあります。相続した不動産を売却した場合には、これに加えて、相続関係を証明する戸籍謄本や、相続税申告書の写しなどが必要になることもあります。
これらの書類は、売却の直前になって慌てて集めようとすると、思いのほか時間がかかることがあります。特に、被相続人が生前に不動産を取得した際の契約書や、相続手続きに関する書類は、売却を意識する前から整理しておくと、いざ確定申告が必要になったときにスムーズです。
● 申告を忘れた場合のリスク
譲渡所得が生じているにもかかわらず確定申告を行わなかった場合、無申告加算税や延滞税といった追加の税負担が生じる可能性があります。特別控除の適用によって納税額がゼロになるはずだったケースでも、申告そのものを怠ると、特例の適用が認められず、本来より高い税額を求められてしまうこともあるため、注意が必要です。
不動産を売却した場合、その売買や登記に関する情報などをもとに、税務署から申告について確認を求められることがあります。「申告しなくてもわからないだろう」と考えず、必要な申告は適切に行いましょう。
まとめ
不動産を売却したときの譲渡所得は、譲渡価額から取得費や譲渡費用を差し引いて計算され、所有期間の長さによって税率が変わります。相続で限定承認を選択した場合には、実際に売却していなくても、みなし譲渡課税が生じることがあるため、通常の売却とは異なる注意が必要です。
譲渡所得には、マイホームの3,000万円控除や空き家特例、取得費加算の特例など、活用できる制度も数多く用意されていますが、それぞれ細かな要件が定められています。制度の存在を知らないまま売却してしまうと、本来受けられたはずの控除を逃してしまい、必要以上の税負担を負ってしまうことにもなりかねません。
不動産の売却は、名義変更(登記)の手続きと切り離せない場面が多く、税務と登記の両方の知識が求められます。「相続した不動産を売却したいが、名義変更と税申告をどう進めればよいかわからない」「限定承認をした場合の税金の扱いが不安」といったお悩みをお持ちの方は、税理士や司法書士といった専門家にご相談ください。

