所有者不明土地管理制度を相続で活用するポイント|相続土地国庫帰属制度との違いも解説
2026/08/07
相続により正確な所有者がわからない土地の管理について、不安や疑問を抱えていませんか?
相続登記がされないまま長期間放置された土地などが全国で問題となるなか、所有者不明土地問題への対応策として、相続登記の義務化や所有者不明土地管理制度などが整備されました。
本記事では、所有者不明土地管理制度の具体的な仕組みや適用場面、具体的な手続きの流れ、さらには相続土地国庫帰属制度との違いもわかりやすく解説します。
目次
所有者不明土地問題とは?
● 全国で問題となっている所有者不明の不動産
所有者不明土地とは、不動産登記簿などの公的な記録を調べても、所有者が誰なのかすぐには分からない、あるいは所有者は判明していてもその所在が分からず連絡が取れない土地のことをいいます。国土交通省の調査でも、こうした所有者不明の土地は全国に相当数存在すると報告されており、その総面積は九州本島に匹敵する規模ともいわれています。
土地だけでなく、同様に所有者が不明な建物についても、社会問題として取り上げられる機会が増えています。空き家の増加とあわせて語られることも多く、老朽化した空き家をどう扱えばよいのか分からない、という相談も年々増加傾向にあります。
「うちの近所にも、長年放置されたままの空き地や空き家がある」という方も少なくないはずです。所有者不明土地の問題は、決して一部の地方や過疎地域だけの話ではなく、都市部を含め、全国どこでも起こり得る身近な問題になっています。
● 所有者がわからなくなるのはなぜ?
所有者不明土地が生じる主な原因は、相続登記が行われないまま長期間放置されることです。所有者が亡くなった後、相続人への名義変更(相続登記)がされないままでいると、次の相続が発生するたびに相続人がねずみ算式に増えていき、最終的には誰が現在の権利者なのか、実務上も把握が困難になってしまいます。
また、都市部への人口移動により、地方にある土地への関心が薄れ、相続した土地を管理する意思がないまま放置されるケースも少なくありません。また、本来の所有者が転居を繰り返すうちに登記上の住所と実際の住所が異なってしまい、連絡が取れなくなるケースも、所有者不明化の一因となっています。
相続が繰り返されるうちに相続人の人数が増えていくと、遠方に住む相続人や連絡が取れない相続人が増えていきます。このような状態になると、相続人全員を特定し、連絡を取ること自体が非常に困難な作業になってしまうのです。
● 所有者不明土地(所有者不明建物)が問題となった背景
所有者不明土地の問題が社会的に注目されるようになったきっかけの一つが、大規模災害からの復興事業です。復興事業や公共事業のために土地を取得しようとしても、所有者が分からず用地買収の交渉すら始められない、という事態が各地で発生し、事業の遅延を招きました。
こうした状況を受けて、令和3年に民法・不動産登記法などが改正され、相続登記の義務化や、この記事で解説する所有者不明土地管理制度、後述する相続土地国庫帰属制度などが新たに整備されることになりました。これらの制度は、令和5年から令和6年にかけて順次施行されており、所有者不明土地問題への対応は、今まさに実務が積み重ねられている段階にあります。
これらの改正は、単に新しい制度を作っただけでなく、「土地は所有しているだけでなく、適切に管理する責任も伴う」という考え方を、より明確に打ち出したものともいえます。相続によって不動産を取得した方にとっても、決して他人事ではないテーマです。
所有者がわからない不動産を放置するとどうなる?
● 周辺への悪影響
所有者が分からないまま放置された土地や建物は、適切な管理が行われず、老朽化した建物の倒壊、樹木の越境、雑草の繁茂、不法投棄などにより、周辺の生活環境や景観に悪影響を及ぼすことがあります。近隣住民とのトラブルに発展するケースも珍しくありません。
こうした状態が長く続くと、近隣住民が自治体に苦情を申し立てても、対応してくれるはずの所有者に連絡がつかず、抜本的な解決に至らないまま状況が悪化し続ける、という悪循環に陥りがちです。防犯上の観点からも、管理されていない空き家や空き地は、不審者の侵入や放火など、思わぬトラブルの温床になりかねません。
● 行政上のトラブル
所有者不明の土地は、公共事業や都市計画のための用地取得を困難にします。道路の拡幅や災害復旧工事などで必要な土地の所有者が分からなければ、行政としても事業を進めることができず、地域全体の発展や安全確保に支障が生じるおそれがあります。
また、危険な空き家について、行政が空家等対策の特別措置法に基づく指導・勧告・命令、さらには行政代執行(強制的な解体など)を行おうとする場合にも、所有者が判明しなければ、その相手方を特定できず、手続きを進めること自体が困難になります。結果として、対応が後手に回り、危険な状態が長期間放置されてしまうことにもつながります。
● 損害賠償責任が生じるおそれ
土地や建物の管理が不十分なために、その工作物(擁壁や建物など)の設置・保存に瑕疵があり、それによって他人に損害を与えた場合、法律上、占有者や所有者が損害賠償責任を負う可能性があります。所有者が不明であっても、この責任がなくなるわけではなく、後になって判明した所有者(あるいはその相続人)が、思わぬ形で責任を追及されることもあります。
たとえば、老朽化したブロック塀が倒れて通行人がけがをした、放置された樹木が倒れて隣家を損傷させた、といったケースでは、所有者が特定された段階で、多額の損害賠償を求められる可能性があります。「自分は相続したことすら意識していなかった」という言い分は、必ずしも責任を免れる理由にはならない点に注意が必要です。
● 相続登記義務化による過料の対象にも
令和6年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化されています。正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。所有者不明化の大きな原因である相続登記の放置は、今や単なる「先延ばし」では済まされないリスクを伴うようになっています。
「名義変更をしないまま放置している不動産がある」という方は、過料のリスクだけでなく、この記事で紹介する所有者不明土地問題の当事者になりかねないという意味でも、早めの対応を検討することをおすすめします。
所有者不明土地管理制度とは
● 所有者不明土地管理制度(所有者不明建物管理制度)とは
所有者不明土地管理制度とは、所有者が不明であったり、所有者は分かっていてもその所在が不明であったりする土地について、利害関係人の申立てにより、裁判所が「所有者不明土地管理人」を選任し、その土地の管理を行わせることができる制度です。建物についても同様の制度(所有者不明建物管理制度)が設けられています。
この制度は、相続人の存否にかかわらず利用できる点が大きな特徴です。相続人が誰もいないケースだけでなく、相続人は存在するもののその所在が分からない、というケースにも対応できます。
制度が創設される以前は、こうした所有者不明の不動産について、周囲の人が何とかしたいと思っても、有効な法的手段がほとんどありませんでした。所有者不明土地管理制度は、こうした「誰も手を付けられない不動産」に対して、初めて具体的な解決の道筋を用意した制度だといえます。
● 土地管理命令の効力
裁判所が土地管理命令を発令すると、その対象となった土地の管理処分権は、所有者不明土地管理人に専属することになります。これにより、従来の所有者(が判明した場合)であっても、対象の土地について自由に管理・処分をすることができなくなります。
所有者不明土地管理人は、土地の保存行為や、その性質を変えない範囲での利用・改良行為を単独で行うことができ、また、裁判所の許可を得れば、土地の売却などの処分行為を行うことも可能です。これにより、放置されていた土地の売却や、隣接地の所有者への譲渡といった対応が実現できるようになります。
管理人には、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるのが一般的です。管理人は、あくまで対象となった土地の管理・処分のために選任される立場であり、それ以外の相続財産や、所有者の他の権利義務にまで関与するわけではない点も押さえておきましょう。
● 土地管理命令の要件
土地管理命令が発令されるためには、裁判所が「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」と認める必要があります。申立てにあたっては、登記簿や住民票、戸籍などを調査し、通常期待される範囲で所有者の特定・所在確認を尽くしたことを示す必要があります。単に「連絡が取れないから」というだけで、安易に認められるものではありません。
申立てをすることができるのは、隣地の所有者、共有者、公共事業の実施者など、その土地の管理について法律上の利害関係を有する人です。「なんとなく気になるから」という理由だけでは申立ての資格が認められない点にも注意しましょう。自分がどのような利害関係を有しているのか、あらかじめ整理しておくことが、申立ての第一歩になります。
● 申立てができる裁判所
所有者不明土地管理制度の申立ては、成年後見や相続放棄などの比較的身近な手続きを担当している家庭裁判所ではなく、対象となる土地の所在地を管轄する地方裁判所に対して行う点に注意が必要です。
相続に関する手続きの多くが家庭裁判所を窓口とするのに対し、所有者不明土地管理制度は、不動産をめぐる紛争解決的な性格が強いことから、地方裁判所が管轄となっています。この違いは、実務上意外と見落とされやすいポイントですので、申立てを検討する際には特に意識しておきましょう。
あらかじめ、管轄の地方裁判所のホームページを確認し、申立書のひな形を入手するなど、手続きについて確認しておくことが大切です。
所有者不明土地管理制度のメリット・デメリット
● 所有者不明土地管理制度を利用するメリット
所有者不明土地管理制度の大きなメリットは、個々の土地・建物という単位で、ピンポイントに対応できる点です。相続財産全体を扱う必要がなく、問題となっている特定の不動産についてのみ、管理人を選任して対応を進めることができます。
また、共有関係にある土地で、共有者の一部の所在が分からない場合でも、他の共有者や、その土地に利害関係を持つ第三者が申立てを行うことで、管理や処分を前に進められる点も、実務上大きなメリットです。共有者全員の合意が得られなければ何もできない、という従来の膠着状態を打開できる可能性がある点は、特に評価されているポイントです。
● 所有者不明土地管理制度のデメリット
一方で、この制度を利用するには、管理人の報酬等に充てるための予納金を裁判所にあらかじめ納める必要があり、その金額は事案によって異なり、管理業務の内容や管理期間などを踏まえて裁判所が決定します。また、申立てから管理命令の発令、管理人による対応まで、一定の時間がかかる点も踏まえておく必要があります。
対象があくまで個々の不動産に限られるため、相続財産全体を包括的に整理したい場合には、この制度だけでは対応しきれないこともあります。予納金は、後に土地を売却できた場合には、その売却代金から回収できることもありますが、必ず回収できるとは限らない点にも留意しておく必要があります。
● 相続土地国庫帰属制度との違い
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって土地を取得した相続人自身が、一定の要件(建物が存在しない、担保権などの負担がない、通常の管理・処分を阻害する障害物がないなど)を満たす場合に、法務大臣の承認を受けて、その土地を国庫に帰属させる(手放す)ことができる制度です。承認を受けるには、一定の負担金を納付する必要があります。
所有者不明土地管理制度との大きな違いは、申立人と目的にあります。相続土地国庫帰属制度は、相続人自身が「不要な土地を手放したい」という場合に利用する制度であるのに対し、所有者不明土地管理制度は、所有者が分からない、あるいは連絡が取れない土地について、第三者である利害関係人が、裁判所を通じてその管理・処分を実現するための制度です。
たとえば、自分自身が相続した使い道のない土地を手放したい場合には相続土地国庫帰属制度、隣人が相続した土地の所有者と連絡が取れず困っている場合には所有者不明土地管理制度、というように、直面している状況によって検討すべき制度が異なります。両者を混同してしまうと、必要な準備や手続き先を誤ってしまうおそれがあるため、注意が必要です。
● 相続財産清算人選任申立てとの違い
相続財産清算人(かつての相続財産管理人)は、相続人のあることが明らかでない場合、つまり相続人が誰もいない(あるいはいるかどうか分からない)場合に、家庭裁判所が選任し、相続財産全体を管理・清算させる制度です。対象は、その被相続人の相続財産全体に及びます。
これに対して所有者不明土地管理制度は、相続人の存否にかかわらず利用でき、対象も個々の土地・建物に限定される点で異なります。相続人がいることは分かっているが所在が不明、という場合には相続財産清算人選任の要件を満たさないことが多く、こうしたケースでは所有者不明土地管理制度の活用が選択肢になります。
どちらの制度を利用すべきかは、相続人の存否や所在の判明状況、対応したい財産の範囲(個別の不動産か、相続財産全体か)によって変わってきます。判断に迷う場合には、両制度の違いを正しく理解している専門家に、早めに相談することをおすすめします。
所有者不明土地管理制度の手続きの流れ
● 所有者不明土地管理制度を利用する流れ
所有者不明土地管理制度は、おおむね次のような流れで利用します。
- 所有者に関する事前調査
- 地方裁判所への申立てと予納金の納付
- 裁判所による審理と公告
- 管理命令の発令と管理人による管理・処分
それぞれのステップについて、順に確認していきましょう。
● ステップ1:所有者に関する事前調査
まず、対象の土地について、登記簿上の所有者を確認し、その住所地の住民票や戸籍の附票などを取得して、実際に所有者(またはその相続人)の所在を調査します。あわせて、対象の土地の現況(利用状況、隣接地との関係など)も確認しておきます。この調査を尽くしたことが、後の申立てにおいて重要な資料となります。
調査の過程で所有者(またはその相続人)の所在が判明した場合には、そもそも所有者不明土地管理制度を利用する必要がなくなり、直接その方と交渉する、あるいは必要に応じて相続登記や遺産分割協議を促すといった対応に切り替えることになります。制度を利用する前提として、まずはできる限りの調査を尽くすことが重要です。
● ステップ2:地方裁判所への申立てと予納金の納付
調査の結果、所有者やその所在を確認できない場合には、対象の土地の所在地を管轄する地方裁判所に対して、土地管理命令の申立てを行います。申立てにあたっては、管理人の報酬等に充てるための予納金をあらかじめ納付する必要があります。
● ステップ3:裁判所による審理と公告
申立てを受けた裁判所は、提出された資料をもとに、所有者やその所在が本当に不明であるかどうかを審理します。
そして裁判所は、所有者不明土地管理命令の申立てがあったことなどを官報に公告するとともに、裁判所の掲示場に掲示します。これに対して異議を申し出るための期間が設けられ、その期間は1か月以上とされています。
この公告手続きは、対象の土地に関して権利を有する可能性のある人に、最後の確認機会を与えるという意味を持っています。裁判所としても、安易に所有者不明と認定して管理人による処分を認めることのないよう、慎重な審理が行われることになります。
● ステップ4:管理命令の発令と管理人による管理・処分
公告期間が満了しても所有者が判明しない場合、裁判所は土地管理命令を発令し、あわせて所有者不明土地管理人を選任します。選任された管理人は、対象の土地について保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得たうえで、売却などの処分行為を進めていくことになります。管理の目的を達成した場合や、所有者が判明した場合には、管理命令が取り消され、手続きが終了します。
まとめ
大阪市などの都市部でも、相続をきっかけに所有者が不明となる土地が増加しています。
こうした事態に対応するため、「所有者不明土地管理制度」が2023年4月から施行されました。この制度は、相続などを原因として所有者が不明となった土地や、所有者の所在が分からない土地について、地方裁判所の関与のもとで管理人を選任し、適切な管理や処分を可能とする仕組みです。
従来、所有者不明な土地は放置されがちで、隣接地の管理や地域の安全・衛生に悪影響が及ぶケースが多く見られました。管理制度の導入により、地域社会や隣接地権者が申し立てることで、土地の維持・管理が法的に進めやすくなりました。
申立て手続きには一定の時間と費用がかかるため、事前に専門家へ相談し、必要な準備を整えておくことがトラブル回避のポイントです。

