準確定申告を期限内に正しく進めるための手続きガイド
2026/05/26
相続が発生した後、相続税申告以外にも税金の申告が必要となるケースがあることをご存じですか?
被相続人が亡くなった後、その年中に確定申告が必要な所得が生じていたり、所得税の還付申告を希望したりする場合、準確定申告という手続きが必要となります。この申告は通常の確定申告と異なり、期限や必要書類、手続きの流れに独自のルールがあります。しかも、対応を誤ると相続税申告や今後の相続手続き全体にも影響するため、正確な知識と迅速な行動が求められます。
本記事では、準確定申告とは何かという基本から、申告が必要となる具体的なケース、申告しなかった場合のリスク、そして申告手続きを進める際の効率的な方法までを専門的かつ実践的に解説します。
目次
相続時に知りたい準確定申告の基本
● 準確定申告とは
準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得について、その相続人(および包括受遺者)が行う確定申告のことです。通常の確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得について、その翌年の2月16日から3月15日の間に申告しますが、申告する人が亡くなった場合、相続人が代わりに申告しなければなりません。
とはいえ、準確定申告は、通常の確定申告と同様、すべての相続で必要なわけではありません。一定の事業所得がある人や所得税の還付を受けたい人など、申告が必要な人のみが行えばよいものなので、しっかりと要否を見極めたいところです。
準確定申告は税務署に申告して行うことになりますが、申告の要否の判断を誤ったり、申告の時期や必要書類を誤解したりすると、その後の相続税の計算や遺産分割にも影響が生じます。特に相続人が複数いる場合は、全員の同意や押印が必要なケースもあるため、事前に流れを把握しておくことが安心につながります。
※ なお、1年以上国外に滞在する場合にも準確定申告が必要となることがありますが、本記事では相続による準確定申告について解説します。
● 準確定申告の特徴
準確定申告には、一般の確定申告とは異なるいくつかの特徴があります。
まず、準確定申告には「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内」という期限が設けられています。期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税といったペナルティが課されるおそれがあります。確定申告が必要な場合は、速やかに手続きを進めなければなりません。
さらに、準確定申告は、相続人等全員の連名で申告することが原則です。相続人等全員で進める場合には、事前に話し合いの場を設けて役割分担を決め、情報共有をしながら進めていきましょう。ただし、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に提出することも可能です。この場合には、他の相続人の委任状が必要となることがあるほか、申告をした後、申告した相続人は、他の相続人に申告内容を通知しなければなりません。また、包括受遺者がいれば、その包括受遺者にも申告義務があります。
もうひとつの特徴として、被相続人の所得を相続人が把握していないこともあり、通常の確定申告よりも準備に時間がかかる可能性があります。被相続人の自宅にある資料で状況が把握できればよいのですが、場合によっては金融機関や被相続人の勤務先等に資料を請求しなければならないことも。
期限内の申告のためにも、相続人間でこまめに連絡を取り合い、進捗や必要事項を共有するよう意識しましょう。
● 準確定申告の主な必要書類
準確定申告の主な必要書類は、被相続人の所得に関する源泉徴収票や経費の領収書、医療費控除の明細書など多岐にわたります。これらを効率よく集め、整理することがスムーズな申告の第一歩です。
このような資料は、被相続人の自宅に保管されているほか、亡くなったことによって会社を退職した場合には、会社から発行されるものもあります。取得先が複数に分かれるため、事前に必要書類をリストアップして、各資料の取得先を確認しておきましょう。
このような資料を集めた後に、申告に必要となる準確定申告書や付表を作成していきます。提出書類のひな形は国税庁のホームページで公開されています。また、オンラインでの申告も可能なので、ご自身で毎年確定申告をしているなど、確定申告に慣れている方は挑戦してみてください。
● 準確定申告と相続税申告との違い
基本事項の紹介の最後に、準確定申告と相続税申告との違いに触れておきます。
準確定申告は相続税申告と混同されやすい手続きですが、相続税申告が「亡くなった人が残した遺産」について申告するものであるのに対して、準確定申告は「亡くなった人の生前の所得」について申告するものです。
さらに、相続税申告においては、各相続人がいくら納税するかはその人が受け取る財産額によって変わるため、申告前に遺産分割協議などによって財産の分け方を確定させる必要があります。一方、準確定申告は、すでに確定した所得について申告するものです。
その結果、申告期限に違いがあり、相続税申告は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」、準確定申告は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内」にしなければならないと定められています。
このように、2つの制度はそれぞれ性質が異なる別個の手続きです。「相続税申告をするから準確定申告はいらないと思っていた」という誤解がないよう、両者の特徴をしっかりと把握しておきましょう。
準確定申告が必要となるケース
● 準確定申告が必要となるケース
準確定申告の要否は、被相続人の亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得の状況によって決まります。ただし、前年の確定申告を終える前に他界した場合は、その確定申告も必要です(2件の確定申告を期限内に行うことになります)。
具体的には、被相続人の給与所得や年金、事業所得、不動産所得などが一定額を超えている場合、申告義務が生じます。要否を判断するには、被相続人の源泉徴収票や年金の支払通知書、預金利息の明細などを集めて、年間の所得総額を把握することが重要です。特に複数の収入がある場合や、医療費控除・生命保険料控除などの適用が考えられるときは、申告要否の判定が複雑になるため注意が必要です。
以下に、準確定申告が必要となる具体的な事例を紹介します。
● ケース1:被相続人が個人事業を営んでいた場合(副業含む)
被相続人が個人事業主だった場合、事業所得について、準確定申告が必要となります。事業の継続・廃止にかかわらず、亡くなった日までの売上や経費を集計し、所得を計算します。また、アパート経営をしていたなどの理由で不動産収入がある場合にも、準確定申告が必要です。
このとき、被相続人の事業の詳細を把握している相続人がいれば申告はスムーズに進みますが、同居していた家族がいない、顧問税理士がいないといった理由で誰も事業の詳細を把握していない場合、資料の収集が難航することもあります。青色申告特別控除の適用や減価償却費の計上など、通常の確定申告と同様の処理が必要となるため、速やかに取り掛かるようにしましょう。
また、見落としやすいケースとして、「給与所得が2,000万円以上あるなどの理由で年末調整がされていない方」や「副業の収入が20万円を超えていた方」、「公的年金の収入が400万円を超えていた方」も確定申告の対象ですので、注意してください。
● ケース2:被相続人に譲渡所得があった場合
被相続人が生前に不動産や株式を売却していた場合、譲渡所得税の申告が必要となることがあります。
譲渡所得は、取得した価格よりも高い価格で売り渡した(利益が発生した)場合に申告が必要であり、原則として、売却して得た金額から取得費および譲渡費用(売却にかかる経費)を差し引いて利益を算出し、申告します。
譲渡所得の申告については、マイホームの譲渡であれば3,000万円特別控除といった税負担を軽減できる特例等が適用できることがありますし、株式の譲渡であれば特定口座内で源泉徴収を受けている場合、申告することで税金の還付を受けられることもあります。
● ケース3:被相続人の医療費控除や寄附金控除を受けたい場合
上記のようなケースに当てはまらない場合であっても、被相続人に源泉徴収されている所得があり、かつ医療費控除や寄附金控除などを受けられる場合、準確定申告をすることで税金の還付を受けられることがあります(還付申告)。
ここで注意したい点ですが、医療費控除の対象となるのは「死亡日までに被相続人が支払った医療費」です。死亡後に相続人が支払った医療費は対象外ですので、注意してください(相続税申告をする場合は、債務控除が可能です)。
同じく、寄附金控除の対象となるのも「死亡日までに被相続人が支出した特定寄附金」です。その他、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除等についても同じ基準で考えられますので、どこまでの支払いが控除の対象となるか確認してください。
遅れるとどうなる? 準確定申告の注意点
● 準確定申告が遅れるとどうなる?
準確定申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内に行わなければなりません。
この期限に遅れると、延滞税や無申告加算税といったペナルティが課されるおそれがあります。これらは本来納付すべき税額に上乗せされ、申告が遅れた期間に応じて増加します。
ペナルティを回避するためには、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内に必要書類をそろえ、速やかに税務署へ提出しましょう。やむを得ない事情がある場合は、事前に税務署へ相談し、どうすればよいか確認することをおすすめします。
なお、還付申告の場合はこのようなペナルティはありません。しかし、亡くなった日の翌年1月1日から5年間以内に申告しなければ時効を迎えてしまうので、忘れないうちに申告しましょう。
● 期限後の準確定申告
準確定申告をしなければならないのに期限が過ぎてしまった場合には、まずはできるだけ早く申告と納付を終えるようにしましょう。延滞税や無申告加算税は、申告期限から日数が経てば経つほど高額になっていきます。
そして無申告加算税については、税務調査の事前通知が来る前に自主的に申告した場合が最も低く、事前通知を受けた後、税務調査を受けた後と徐々に高くなります。
少しでも税負担を抑えるために、1日でも早く申告するようにしてください。
また、「もうすぐ期限だが、まだ申告書が完成していない」という場合には、ひとまず現時点でわかる分で構わないので申告を済ませてしまうという方法もあります。どのような対応をすればよいか不安な方は、税務署の相談窓口や、お近くの税理士に相談し、適切なアドバイスを受けてください。
● 原則として相続人等全員で申告する必要がある点にも注意
相続人等が複数いる場合、準確定申告書には原則として全員の連署が必要です。
相続人の居住地が離れている場合や連絡が取りづらい場合、書類の取りまとめや署名手続きに時間がかかることが多いです。期限内に提出できるよう、早めの連絡・調整を心がけてください。
なお、相続人の一人が代表して申告書を提出することも可能です。ただし、この場合であっても、他の相続人等が申告書の内容に事前に同意している必要がありますし、還付金を代表者の口座に振り込むような場合には他の相続人等全員の委任状を提出しなければなりません。
申告が遅れてしまい後から加算税や延滞税が発生するリスクを回避するためにも、相続人同士で役割分担を明確にし、必要書類を事前に確認しておきましょう。
● 遅れやミスを防ぐためにできること
準確定申告の遅れやミスを防ぐには、速やかな準備と相続人間の情報共有が重要です。
まずは被相続人の所得や財産状況を正確に把握し、必要書類(準確定申告書、付表、委任状など)を早めにそろえましょう。どのような書類をそろえればよいかについては国税庁が公開しているホームページや税務署の相談窓口、または税理士に相談しましょう。期限が短いので、速やかな対応が肝要です。
また、相続人等全員で進捗状況を共有し、役割分担を明確にしておくこともトラブル防止につながります。先述のとおり、準確定申告には原則として相続人等全員の関与が必要です。いつ、どのような書類が必要となるか、しっかりと情報共有しておきましょう。
準確定申告の進め方
● 準確定申告の進め方
準確定申告の大まかな流れは以下のとおりです。
- 申告が必要かどうかを確認する
- 必要書類を準備する
- 申告方法を決め、申告書や委任状を作成する
- 管轄の税務署へ申告し、納税する/還付を受ける
以下に、詳しく解説していきます。
● ステップ1:申告が必要かどうかを確認する
準確定申告は、亡くなった全員について必要なわけではありません。
申告をしなければならない要件に当てはまるか、または還付金が発生しそうかどうか、被相続人の生前の所得等を確認しましょう(詳しくは前記「準確定申告が必要となるケース」参照)。
● ステップ2:必要書類を準備する
準確定申告が必要だとわかれば、必要書類の準備に取り掛かります。
申告書を作るために必要な主な書類は、被相続人の年金や給与の源泉徴収票、医療費控除や保険料控除を受けるための領収書・証明書、事業を営んでいた場合は売上と経費がわかる資料(前年の確定申告資料含む)、譲渡所得がある場合は証券会社から届く取引明細や不動産の取得価格がわかる資料等です。これらの書類は直接税務署に提出するわけではありませんが、申告書作成のために必要です。
そして、これらの書類を元に作成した申告書を、申告者の本人確認書類(マイナンバーカード等)とあわせて提出することになります。会社での退職処理がある場合や株式に関する申告がある場合には、取得に時間がかかることもあるので、どのような書類が必要かを把握して速やかに取り掛かるようにしましょう。
● ステップ3:申告方法を決め、申告書や委任状を作成する
必要書類の収集を進めるとともに、申告方法も決めていきましょう。
準確定申告をするのは、相続人または包括受遺者(遺言書で包括遺贈を受けた者)です。全員で申告書に連署して行うのが原則ですが、代表者が申告することも可能です(代表者が申告した場合、申告した人は他の相続人等全員に申告内容を通知する必要があります)。ただし、申告書のなかに相続人等全員の氏名や住所、マイナンバー等を記入する欄があるので、代表者が申告する場合でも情報共有はできるようにしておきましょう。
また、還付金を受け取る場合、代表者からの申告であっても他の相続人等全員からの委任状が必要です。申告書や委任状の書式は国税庁のホームページで公開されているので、事前に記入内容を確認しておきましょう。
● ステップ4:管轄の税務署へ申告し、納税する/還付を受ける
申告書が完成したら、管轄の税務署へ提出します。管轄となるのは、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。申告者である相続人の住所地の税務署ではないため、注意しましょう。
そして、納付すべき税額がある場合、申告書の提出期限である「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内」の期限内に納付します。納付の際には、自分で納付書を作成しなければなりません。このとき、相続人等が複数いるのであれば、納付書は各相続人等ごとに作成し、それぞれが納付することになる点に注意してください。
反対に還付金が生じる場合は、申告後、申告書で指定した口座に振り込まれます。代表者の口座に振り込まれた場合は、相続分どおりに分配するようにしてください。
準確定申告に関する相談先
● 慣れている方は国税庁のホームページを確認
ここからは、準確定申告に関する相談先を紹介します。
まず、「普段から自分の確定申告をしているし、亡くなった家族の所得も把握している」という場合には、国税庁などが公開しているホームページから必要書類を確認し、申告にチャレンジしてみてください。
なお、準確定申告はe-Taxによる提出も可能ですが、確定申告でよく利用される「確定申告書等作成コーナー」は利用できませんので、ご注意ください。
● 相談先1:税務署の相談窓口
申告の要否や申告書の記載方法に疑問がある方は、税務署の相談窓口を利用できます。
相談窓口の活用方法としては、事前に必要書類をそろえ、具体的な質問事項をメモしておくとスムーズです。また、電話ではなく窓口での相談を希望する場合、多くの税務署で事前予約が必要ですので、来庁前に確認してください。
税務署での相談は、相談内容によっては、その場で手続き方法や記載例の説明を受けられる点が大きなメリットです。ただし、税務署での相談はあくまで申告の手続き面に関するアドバイスのような位置づけにありますので、複雑な相続や節税に関する相談については、以下で紹介する方法で税理士に相談することをおすすめします。
● 相談先2:税理士への個別相談
準確定申告について、最も代表的な相談先は税理士です。
税理士は、申告書の作成はもちろん、申告行為自体を代行することができます。時間がない方や手間を省きたい方、ミスなく申告したい方は、積極的に活用しましょう。
いきなり個別の税理士に依頼するのはハードルが高いと感じる方は、税理士会の無料相談会を活用するほか、初回相談を無料で行っているような税理士事務所へ相談されることをおすすめします。
● 相談先3:司法書士に相続手続きをまとめて相談
「準確定申告のこと以外にも、相続について相談したいことがある」「準確定申告の他にも、相続手続き(預金解約や相続登記、遺産分割協議書の作成)を一括して頼みたい」という方は、税理士と提携している司法書士への相談もおすすめです。
近年はサービス向上のため、士業間で提携して、相続に関する業務を一括してサポートしている専門家事務所も増えています。相談の際に、「相続手続きとあわせて準確定申告も頼みたいが、まとめて任せられるか」を確認してください。
まとめ
相続における準確定申告は、被相続人が亡くなった後に必要となる重要な手続きです。しかし、申告期限を過ぎてしまうと、延滞税や加算税などのペナルティが課されるリスクがあるほか、相続税申告や遺産分割協議など、その後の相続手続き全体に影響が及びます。
また、相続人等全員で進めなければならないという特徴から、手続きが滞ることで相続人同士の信頼関係が損なわれるといった不必要なトラブルが発生することもあります。準確定申告の要否を素早く判断し、迅速な対応を心がけましょう。
申告が必要かわからない場合や疑問がある場合には、税務署の相談窓口や税理士などの専門家に、早めにご相談ください。

