信託監督人とは? 家族信託での役割やメリットを解説
2026/09/29
家族信託では、信頼できる家族などに財産の管理を任せることができます。
しかし、「財産の管理を任せた受託者が、本当にきちんと管理してくれるのか」「受益者が自分で受託者を監督できなくなったらどうするのか」と心配になる方もいるかもしれません。
このような場合に活用できるのが「信託監督人」です。
信託監督人は、受益者のために受託者を監督する役割を担います。特に、認知症などによって受益者自身が受託者を十分に監督することが難しくなるケースでは、信託監督人を置くことが役立つ場合があります。
本記事では、信託監督人の基本的な仕組みや役割、家族信託で信託監督人を置くメリット、受益者代理人との違いなどについて、わかりやすく解説します。
目次
信託監督人とは?
● そもそも家族信託とは?
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族などに託し、その財産を管理・運用・処分してもらう仕組みです。
この家族信託では、「委託者」「受託者」「受益者」という3つの立場が登場します。
- 委託者:財産を信託する人
- 受託者:信託された財産を管理・処分する人
- 受益者:信託財産から利益を受ける人
たとえば、父親が自宅を信託し、子どもに管理を任せる場合、父親が委託者、子どもが受託者となります。そして通常の家族信託では、委託者が引き続き信託財産から利益を受け続けるため、父親は「委託者兼受益者」となります(この利益とは、居住権や家賃収入、売却益などのことです)。
委託者と受益者が同一となる多くの家族信託では、財産から利益を受ける人が信託の前後で変わらないため、信託を設定したこと自体による贈与税は通常発生しない点も特徴です。
このように、家族信託では、受託者に財産の管理を任せながら、受益者が信託財産から利益を受けるという仕組みをつくることができます。
しかし、受益者が高齢になったり、認知症などによって判断能力が低下したりすると、受託者が適切に財産を管理しているかどうかを自分で確認することが難しくなる場合があります。
そこで、受益者を保護するために利用できるのが「信託監督人」です。
● 信託監督人は受託者を監督する立場
信託監督人とは、簡単にいうと、受益者のために受託者を監督する人です。
信託法では、信託行為の定めによって信託監督人を指定することができます。たとえば、父親を受益者、長男を受託者として家族信託を設定したとします。この場合、長男は父親のために信託財産を管理することになりますが、父親が高齢になると、財産管理の状況を十分に確認できなくなる可能性があります。そこで、信託監督人として別の家族や専門家を指定しておけば、その人が受益者のために受託者の職務を監督することができます。
信託監督人は、受託者に代わって財産を管理したり、受益者に代わって利益を受けたりする人ではありません。あくまで、受託者が信託契約に従って適切に仕事をしているかをチェックし、現に存する受益者を保護する立場です。
● 信託監督人は必ず必要なの?
家族信託を設定する場合、必ず信託監督人を置かなければならないわけではありません。
たとえば、受益者自身が受託者の財産管理を十分に確認できる場合や、家族間の信頼関係が強く、信託監督人を置く必要性が低い場合には、信託監督人を置かないこともあります。
一方で、
「受益者が高齢で、将来的に受託者を監督することが難しくなるかもしれない」
「受託者以外の人にも財産管理をチェックしてもらいたい」
「複数の相続人がいて、将来的な親族間のトラブルをできるだけ避けたい」
といった場合には、信託監督人を置くことを検討する価値があります。
● 受益者代理人との違い
信託監督人と似た制度に「受益者代理人」があります。どちらも受益者を保護するための制度ですが、役割は異なります。
信託監督人は、受益者のために受託者を監督することを中心とした立場です。一方、受益者代理人は、受益者に代わって、受益者の権利に関する行為をする立場です。
たとえば、受益者自身が受託者を監督することが難しい場合に、受託者の仕事をチェックする役割を担ってもらいたいのであれば、信託監督人が考えられます。これに対して、受益者自身が権利を行使することそのものが難しくなることを想定し、その権利行使を別の人に任せたい場合には、受益者代理人が適している場合があります。
このように、両者は似ているようで役割が異なるため、家族信託を設計するときには、それぞれの制度の違いを理解しておくことが大切です。
信託監督人にはどのような権限がある?
● 受益者のために受託者を監督する
信託監督人の基本的な役割は、受益者のために受託者を監督することです。
家族信託では、受託者が信託財産を管理したり、必要に応じて不動産を売却したりすることがあります。
このような場合、信託監督人は、信託契約の内容や信託の目的、受益者の利益を踏まえて、受託者の行為をチェックすることができます。
たとえば、受託者が自分にとって都合がよいという理由だけで、受益者に不利な契約を結ぼうとしているケースを考えてみましょう。受益者が元気なうちは、「その契約は自分にとって不利益ではないか」と確認できますが、判断能力が低下していると、自分で受託者の行為を確認することが難しくなります。このような場合に信託監督人がいれば、受託者が信託の目的に沿って行動しているか、受益者の利益を不当に害することにならないかをチェックすることができます。
また、受託者が信託財産である不動産を売却するときにも、信託契約で定められた目的や受益者の利益に照らして、その行為が適切なのかを確認することができます。
このように、信託監督人は受託者の行為を何でも止める人ではなく、受益者の利益が守られているかという視点から、受託者の仕事を監督する人と考えるとわかりやすいでしょう。
● 受益者に代わって権利を行使できる
信託監督人には、受益者のために、一定の権利を行使することが認められています。
信託法では、信託監督人が受益者のために一定の裁判上・裁判外の行為をすることができると定められています。そのため、たとえば受託者が信託上の義務を適切に果たしていない場合などには、信託監督人は、受益者を保護するために、必要な権利を行使することができます。
このように、信託監督人は単に信託財産の状況を確認するだけの人ではなく、受益者を保護するために、必要な場面では受託者に対して適切な対応を求めることができる立場なのです。
※ なお、信託監督人が選任されている場合であっても、受益者自身も引き続きこのような権利を行使することは可能です。
● 信託契約で権限を調整することもできる
信託監督人を置く場合には、「誰を信託監督人にするか」だけでなく、「どのような役割を担ってもらうのか」を信託契約の段階で検討しておくことが重要です。
信託監督人の権限には法律上定められているものがありますが、信託の具体的な内容や運用方法については、信託行為の内容によっても変わります。
たとえば、受託者から定期的に財産の管理状況について報告を受ける仕組みにしたり、重要な財産処分について確認できるようにしたりするなど、信託の目的や財産の内容に応じて、どのような監督が必要なのかを検討することができます。
特に、不動産などの価値の大きな財産を信託する場合には、受託者に幅広い権限を与えることがあります。
そのため、受益者の利益を守るために、どのような場面で受託者をチェックする必要があるのかを、信託契約を作成する段階で考えておくことが大切です。
家族信託で信託監督人を置くメリット
● 受託者による財産管理をチェックできる
信託監督人を置く大きなメリットの一つは、受託者による財産管理をチェックできることです。
家族信託では、受託者に大きな権限を与えることがあります。たとえば、賃貸不動産を信託した場合、受託者が賃料を管理したり、必要に応じて修繕を行ったり、不動産を売却したりすることがあります。受益者自身がこれらの内容を確認できれば問題ありませんが、高齢などの理由で難しい場合には、信託監督人によるチェックが役立ちます。
● 受益者自身が監督することが難しい場合に役立つ
特に、家族信託では、将来的に受益者の判断能力が低下することを想定しているケースがあります。
たとえば、父親が認知症になった場合に備えて、長男を受託者として家族信託を設定したとします。父親が元気なうちは、長男の財産管理について確認できます。しかし、父親の判断能力が低下すると、長男が適切に財産を管理しているかどうかを父親自身が確認することは難しくなるかもしれません。このような場合に信託監督人を置いておけば、受益者である父親に代わって、受託者の仕事を監督してもらうことができます。
● 親族間のトラブルを防ぎやすくなる
家族信託では、受託者に選ばれた家族と、それ以外の家族との間で、財産管理について意見が対立することがあります。
たとえば、長男が受託者となっている一方で、次男から「本当に父親のために財産を使っているのか」と疑われるようなケースです。
このような場合、信託監督人が財産管理をチェックする仕組みを設けておけば、受託者だけに任せるよりも、財産管理の透明性を確保しやすくなります。
もちろん、信託監督人を置いたからといって親族間のトラブルが必ずなくなるわけではありません。しかし、第三者のチェックが入る仕組みをあらかじめつくっておくことで、将来的なトラブルを防ぐための一つの方法になります。
信託監督人はどのような人を選べばいい?
● 家族を信託監督人にすることもできる
信託監督人には、家族などの身近な人を指定することもできます。たとえば、長男を受託者とし、次男を信託監督人とするような設計です。
このようにすることで、受託者とは別の家族が信託財産の管理状況を確認することができ、親族間での透明性を高めることができます。
ただし、受託者と信託監督人の双方が同じような利害関係を持っている場合などには、十分な監督が期待できない可能性もあります。そのため、単に「家族だから安心」と考えるのではなく、信託監督人として適切に役割を果たせる人なのかを考えることが大切です。
● 司法書士や弁護士などの専門家を選ぶ方法もある
信託監督人には、司法書士や弁護士などの専門家を選ぶ方法もあります。
家族以外の第三者に監督してもらうことで、受託者と一定の距離を保ちながら、信託財産の管理状況を確認してもらうことができます。特に、信託財産が不動産などで複雑な管理が必要な場合や、将来的に親族間で意見が対立する可能性がある場合には、専門家を信託監督人とすることが検討されます。
ただし、専門家に依頼する場合には、報酬が発生することもあります。
● 信頼できる人を選ぶことが重要
信託監督人は、受益者を守る重要な役割を担います。
そのため、受託者との関係だけでなく、受益者の利益を優先して行動できる人なのかという点も重要です。
また、長期間にわたって信託監督人としての役割を担うことになる可能性もあります。そのため、信託を設定するときには、現在の状況だけでなく、将来にわたって役割を果たせるかどうかも含めて、慎重に選ぶ必要があります。
信託監督人を置くときの注意点
● 報酬や費用が発生する場合がある
信託監督人を置く場合には、報酬や必要な費用についても考えておく必要があります。
家族を信託監督人とする場合には、報酬を設定しないことも考えられます。一方、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合には、業務内容に応じた報酬が発生することがあります。
信託監督人を置く場合には、誰に依頼するのかだけでなく、どのような業務をしてもらうのか、報酬をどのようにするのかについても、あらかじめ確認しておきましょう。
● 信託監督人を置けばすべてのトラブルを防げるわけではない
信託監督人を置いたからといって、家族信託に関するトラブルがすべて防げるわけではありません。
信託監督人には、信託法や信託行為によって定められた権限があります。そのため、信託監督人が何でも自由に受託者の行為を決めたり、受託者に代わって財産を管理したりするわけではありません。
重要なのは、信託監督人にどのような役割を担ってもらうのかを、信託の目的や家族の状況に応じて適切に設計することです。
● 信託契約の段階で役割や権限を明確にしておく
信託監督人を置くのであれば、信託契約を作成する段階で、その役割や権限について十分に検討しておくことが大切です。
「受託者を監督してもらう」といっても、どのような場面で確認するのか、どのような情報を受託者から受け取るのかなどによって、実際の運用は変わってきます。また、信託監督人を置く必要があるのか、受益者代理人を置いたほうがよいのかなど、家族信託全体の仕組みの中で検討することも重要です。
家族信託は、一度設定すると長期間にわたって財産管理に関係することがあります。そのため、目の前の財産管理だけでなく、将来の家族関係や受益者の状況なども考えながら、信託の内容を設計することが大切です。
まとめ
信託監督人とは、受益者のために受託者を監督する役割を担う人です。
家族信託では、受託者に財産の管理を任せるため、受益者自身が受託者を十分に監督できない場合には、信託監督人を置くことで受益者の保護を図ることができます。特に、受益者が高齢であったり、将来的に判断能力が低下することが想定されたりする場合には、信託監督人を置くことが役立つ場合があります。
また、信託監督人には家族を指定することも、司法書士や弁護士などの専門家を指定することもできます。ただし、受益者の利益を考えて適切に監督できる人を選ぶことが重要です。
すべての家族信託に信託監督人が必要なわけではありません。受益者や受託者の状況、信託財産の内容、家族関係などを踏まえて、信託監督人を置く必要があるのか、どのような権限を持たせるのかを検討することが大切です。

