成年後見を活用した不動産売却手順|裁判所の許可が必要な理由や手続きの流れを解説
2026/03/03
認知症などで判断能力が低下して意思表示が難しくなった親の自宅を売却したいが、何から手をつけていいかわからないというお悩みはありませんか?
このような場合には、成年後見制度の利用が検討できます。成年後見人は本人に代わって財産管理を行う役割を担い、家庭裁判所の許可を得ることで、不動産を売却することも可能です。不動産の売却をスムーズに進めるためには、適切な手続きや必要書類の準備、許可取得後の流れを理解しておく必要があります。
本記事では、不動産の売却にあたって家庭裁判所の許可が必要な理由から実際に売却する際の手順まで、実践的に解説します。
目次
成年後見制度の基本
● そもそも成年後見制度とは
成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産管理や生活上の重要な契約を、後見人が本人に代わって行う仕組みです。認知症や知的障がい、精神障がいなどで、自分自身での契約の締結や財産の管理が難しくなった場合、家庭裁判所へ申立てをして後見人を選任してもらうことで、成年後見制度を通じた適切な支援を受けられるようになります。
本人が自宅などの不動産を所有していても、認知症などにより自ら意思表示ができなくなった場合、通常は売却手続きが進められません。そこで、成年後見人が財産管理の代理人として選任され、本人に代わって不動産売却などの重要な契約を行うことができるのです。
成年後見制度を利用することで、不正な財産の流出や悪質な契約から本人を守ることができる反面、後見人の選任や報酬、定期的な家庭裁判所への報告義務など、制度利用の際には注意すべき点も多く存在します。大阪市でも多くの市民が成年後見制度についての相談を寄せており、専門家の支援を受けながら活用しています。
● 後見人の種類
後見には「後見」「保佐」「補助」という3つの類型があり、本人の判断能力の程度に応じて選択されます。それぞれの類型で本人を支える役割に就くのが「成年後見人」「保佐人」「補助人」であり、成年後見人が最も強い権限をもちます。
医師の診断をもとにどの類型で申し立てるかを決めますが、最終的には、本人の状況や支援の必要性などを総合的に考慮したうえで、家庭裁判所が類型を決定します。たとえば、判断能力がほとんどない場合は「後見」、一部判断ができる場合は「保佐」や「補助」が選択されます。
※ 以下では、特段説明のない限り後見類型が選択された前提で解説します。
さらに、成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。「法定後見」はすでに判断能力が低下した場合に利用され、「任意後見」は将来に備えて元気なうちに契約を結んでおくものです。それぞれの制度は本人の状況や希望に応じて選択され、本人の権利や財産を守るための法的な支えとなります。
● 後見人の権限と職務
後見人の主な権限は「財産管理権」と「身上監護権」に大別され、本人の財産管理や生活全般のサポートを行うことができます。具体的には、預貯金や現金の管理、施設入所契約の締結、病院への入院手続、保険金請求の手続き、不動産などの重要な財産の管理や処分等を行います。
このような業務はすべて、家庭裁判所の監視下で行われます。家庭裁判所は、後見人の財産管理や身上監護の状況をチェックし、必要に応じて指示や権限の制限・変更を行うことがあります。また、本人と後見人の利益が相反する場合や、権限の逸脱が疑われる場合には、後見監督人の選任や後見人の解任などの対応を行います。
全体として、家庭裁判所と後見人が協力して本人の権利を守るようなイメージといえるでしょう。後見人の権限と職務は、法律で厳格に決められているのです。
● 後見人は不動産を売却することも可能
後見人は、財産管理のもとで、不動産を売却することもできます。
このような重大な財産を処分する権限は、成年後見人であれば当然に、保佐人や補助人であれば不動産売却の代理権がある場合にのみ、行使することができます。
また、任意後見による後見人であっても、本人と締結した任意後見契約書のなかでその権限が明記されていれば、不動産を売却することが可能です。
不動産の売却は本人にとって重大なことなので、後見人は当然ながら大きな責任をもって「本当に必要か」を判断してから実施することになります。
不動産の売却に裁判所の許可が必要な理由
● 居住用不動産の売却には裁判所の許可が必要
そのような後見人の責任をより明確にするために、法律上、本人名義の居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要とされています。
居住用不動産とは、不動産のなかでも特に、本人が居住している、または以前居住していたような不動産を指します。このような不動産を売却するのは、本人の居住権や心情面への配慮という観点から特に重大な行為であり、後見人の独断でできないよう、法律で制限されているのです。これは、本人の利益を最大限守るための法的な安全装置といえるでしょう。
大阪市でも後見制度の利用件数が増加傾向にあり、高齢者の住まいの売却や資産整理の場面でも多く活用されています。介護費用の確保や施設入所費用の捻出のために不動産を売却するというケースも多く、意思表示が難しい本人のために、このような法律での制限が整備されました。
この許可の申立てには、売却理由の資料や売買契約書案、査定書など多くの書類が必要となり、許可が下りるまで1~2か月程度かかることが一般的です。許可を得ずに売却すると、売買契約は無効となるため、必ず手順を守る必要があります。
※ ただし、任意後見制度では、契約締結時に本人が「自宅を売っても構いません」という旨の契約をしていたら、後見人は、裁判所の許可を得ずとも居住用不動産を売却することができます。
● 不動産の売却はどのようなときに許可されるか
後見人による不動産の売却は、どのようなときでも許可されるわけではありません。
家庭裁判所は、不動産の売却許可にあたって、「売却の必要性」や「価格の妥当性」を重視して審査します。売却せずとも現預金が十分にあるような場合や、低廉な価格で売却しようとする場合、許可されないでしょう。また、居住用不動産という特性上、将来的に本人が自宅に戻る可能性がある場合も通常は許可されません。
一方で、本人が入院や施設入所で自宅に戻る見込みがない場合や、現金化しなければ生活費が不足する場合に許可が認められやすい傾向があります。許可の申立時には、具体的な売却理由や資金使途を明確に示すことがポイントなのです。
● 監督人がいる場合は、監督人への説明も必要
成年後見制度では、後見人に加えて、後見人を監督する「監督人」が選任されることもあります。任意後見では監督人は必ず選任されますし、法定後見でも、親族が後見人となっているような場合には監督人が選任されることがあります。
監督人が選任されている場合に居住用不動産の売却を検討する際は、家庭裁判所の許可に加えて、監督人の同意も必要となります。同意を得るタイミングについては特に規定があるわけではありませんが、実務上、先に監督人の同意を得てから、家庭裁判所に許可の申立てをすることがほとんどです。
成年後見制度では、後見人・監督人・裁判所の3者が納得したうえで手続きを進めるようにすることで、本人の権利を保護しているのです。
後見人を通じての不動産売却の注意点
● 後見申立て・売却許可には時間がかかる
家庭裁判所へ居住用不動産の売却許可を申し立ててから実際に売却許可が下りるまでには、1~2か月程度かかることが一般的です。「今すぐ売却したい」「この時期に売ると高値で売れる」と考えていても、売却したいタイミングですぐに許可をもらえるわけではないので、十分に注意してください。
また、まだ後見人がいない認知症の方の不動産を売却したいのであれば、後見人選任の申立てと同時に売却許可の申立てをすることも可能です。その場合には、後見人選任の申立ての処理のためにさらに時間を要することになるので、余裕をもって手続きを始めるようにしましょう。
● 売主は後見人だが、売却はあくまで「本人」のため
成年後見制度では、成年後見人は、本人の法定代理人として、本人に代わって様々な手続きを行うことができます。不動産の売却にあたっても、売買契約書の締結や登記必要書類への押印といった実際の行為をするのは、本人ではなく後見人です。
しかし、成年後見制度はあくまで本人のための制度であり、後見人やその他の親族のための制度ではありません。そのため、「不動産の管理が手間だから売ってしまいたい」「相続財産の整理のために親族が売却を希望している」という理由で売却してしまうことは許されません。あくまで本人の生活のための資金調達や管理費等の負担軽減のため、本人の生活状況や資産全体のバランスを見極めて、売却や賃貸といった対応を検討することが重要です。後見人が不動産を売却する際は、第一に本人の利益を最優先に考え、売却理由や価格の妥当性を客観的に証明できるように準備しましょう。
また、売却後の資金管理についても、本人の生活費や介護費の支出計画を立て、必要に応じて家庭裁判所へ報告することが重要です。売却手続き全体を通じて、後見人自身の報酬や経費についても事前に確認し、適切に申告・処理しましょう。
● 複数社の査定を取る必要がある
本人の利益を保護するためにも、不動産を売却する際は、できるだけ高い値段で売ることを求められます。さらに、「後見人が懇意にしている不動産業者に安値で売る」といった事態も防ぐべきでしょう。
そのため、後見人が不動産を売る際は、原則として複数社の査定を取ることが求められます。その後、裁判所の許可が下りたら、複数社の査定のうち、最も高く売れる(本人にとって有利な)業者で売ることになります。
● 本人の希望を聞き、居住権を確保する
ここまで、実際に売却活動を進める前提で注意点を紹介しましたが、そもそも売るべきかどうかを判断する段階でも注意点があります。
それが、「極力本人の希望を実現できるよう努力する」という点です。
後見制度を利用している以上、本人の判断能力は低下してしまっているため、適切な意思表示をすることは難しくなっています。とはいえ、本人の意向をまったく無視して手続きを進めることは望ましくありません。「本人が植物状態である」といった理由で一切の意思表示ができないような事例は除きますが、本人が何かしらの意思表示をすることができるのであれば、売却にあたり、極力本人の意向を確認することが望まれるでしょう。
● 推定相続人等の関係者にも配慮する
また、本人以外にも、推定相続人等を含む親族や、本人の周囲の関係者にも配慮は必要です。
成年後見制度を利用した不動産売却では、親族間の意見対立や、後見人の判断が疑問視されるケースが少なくありません。たとえば「なぜ売却が必要なのか」という家族内での合意形成が不十分な場合、後々トラブルにつながることがあります。
また、売却価格が市場相場と大きく乖離していたり、親族など特定の相手に著しく有利な条件で売却した場合、家庭裁判所の許可が下りないこともあります。さらに、売却後の資金使途が曖昧なまま進めてしまうと、後で不正利用を疑われるリスクも高まります。
そのような背景事情もしっかりと説明したうえで、周囲の人々と協力して手続きを進めることが理想といえるでしょう。
後見人選任申立てから不動産売却までの流れ
● 不動産売却までの流れ
実際に後見人が本人の居住用不動産を売却する場合、手続きの流れは以下のようになります。
- 売却理由や資金用途、物件情報の整理
- 不動産の査定
- 必要書類(登記事項証明書や評価証明書等)の収集
- 家庭裁判所への申立書提出
- 家庭裁判所による審理・照会
- 許可決定書の受領
- 不動産の売却(決済)・登記
- 売却代金の管理
以下に、注意点を挙げながら解説していきます。
● 申立ての準備
居住用不動産の売却許可の申立先となる家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。大阪市であれば、大阪家庭裁判所が管轄します。
そして申立てにあたっては、以下のような書類が必要です。
- 申立書
- 売却の必要性を説明する資料
- 処分する不動産の登記事項証明書や固定資産税評価証明書
- 売買契約書案
- 不動産業者の査定書
- (ローンを組む場合)金銭消費貸借契約書案
- (監督人がいる場合)監督人の意見書
- 収入印紙800円分
- 郵便切手(管轄の裁判所によって異なる)
その他、事案によって必要な書類が多少異なります。不安な点があれば、事前に裁判所に相談するとよいでしょう。
査定書など取得に時間がかかる書類もあるため、計画的に準備してください。
● 申立時の注意点
申立時の注意点として、後見人を通した不動産売却をする際、後見人の追加報酬が発生します。
成年後見人の報酬は、毎月およそ2万円から3万円程度が一般的な目安とされています。ただし、不動産売却など本人の財産に大きな変動が生じる業務を行った場合、家庭裁判所が認めれば「付加報酬」が別途支払われることがあるのです。
注意点として、報酬額は必ずしも一律ではなく、付加報酬の金額は売却金額や手続きの難易度、かかった労力などを総合的に勘案して決定されます。報酬に関するトラブルを避けるためにも、手続き開始前に家庭裁判所や専門家に相談し、想定される費用や流れを事前に確認することが大切です。また、報酬の支払いが本人の生活費や介護費用に影響しないよう、計画的な資金管理を心がけましょう。
● 申立後の流れ
申立後は、裁判所が、不動産の売却が適切かどうかを判断します。判断にあたって裁判所から追加資料の提出や事実確認の照会がなされる場合もありますので、裁判所からの連絡に対応できるようにしましょう。
具体的には、売却する必要があるか、売却価格が相場とかけ離れていないか、売却後の資金管理計画が合理的かなどが審査のポイントとなります。裁判所の質問には迅速かつ正確に対応することが、許可取得までの期間短縮につながります。
● 売却時の手続き
家庭裁判所から不動産売却許可が下りた後は、実際の売却手続きに進むことができますが、いくつかの注意点があります。
まず、売却許可の審判書は売買契約締結時や登記手続時に必要となるため、紛失しないよう厳重に保管しましょう。そして、売却時には売主の印鑑証明書が必要ですが、この際に求められるのは本人ではなく後見人の印鑑証明書です。書類の漏れがないよう、事前に不動産会社や司法書士と綿密に打ち合わせて確認してください。
売却後の資金は、被後見人の生活費や医療費、施設入所費用など、本人の利益に沿った使い道で管理する必要があります。家庭裁判所から資金の使途について報告を求められる場合もあるため、記録をしっかり残しておきましょう。
まとめ
成年後見人が本人の居住用不動産の売却許可を取得するには、いくつかのステップを踏む必要があります。まず、売却理由の整理と必要書類の収集をします。次に、家庭裁判所に対し「不動産売却許可申立書」を提出し、審理を経て許可を受けるという流れです。
特に注意したいのは、売却の理由が本人の利益に明確に結びついているかどうかです。「施設入所資金の確保」や「空き家リスク回避」など、合理的な理由が必要です。書類不備や説明不足があると再提出や追加説明を求められるため、具体的な根拠を丁寧に示しましょう。
実際の申請例では、「書類不備で再提出となり手続きが長引いた」ケースも見られるため、事前にチェックリストを作成し、必要書類をもれなく用意することが重要です。経験豊富な専門家によるサポートを受ければ、申立てから許可まで、円滑な手続きが期待できます。

