相続の承認又は放棄の期間の伸長とは|相続放棄の期限を延ばす方法を紹介
2026/09/01
「相続放棄をした方がよいのか迷っているうちに、あっという間に3か月が経ってしまいそう」と不安になる方は少なくありません。実は、この期限は一定の手続きを踏むことで延ばすことができます。それが「相続の承認又は放棄の期間の伸長(熟慮期間の伸長)」という制度です。
「期限を過ぎたら相続放棄できなくなる」ということだけを知っていて、期限を伸ばせる制度があることを知らないまま、焦って結論を出してしまう方も少なくありません。制度の存在を正しく知っておくだけで、落ち着いて相続に向き合えるようになります。
本記事では、相続放棄・限定承認の基本的な仕組みから、期限を過ぎるとどうなるのか、そして期間の伸長の仕組みや申立ての流れ、注意点まで、わかりやすく解説します。
目次
相続放棄や限定承認は原則3か月以内
● 相続が起こるとどうなる?
相続が起こると、相続人は、被相続人(亡くなった方)が持っていた財産上の権利義務を、原則として包括的に引き継ぐことになります。ここでいう権利義務には、不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
相続は、被相続人が亡くなった瞬間に、相続人の意思にかかわらず当然に開始します。つまり、「相続するかどうかまだ決めていない」という段階でも、法律上はすでに相続が始まっており、その後どのように対応するかを相続人自身が選択していくことになります。
そして相続人は、この相続をそのまま受け入れる(単純承認)か、一定の条件付きで受け入れる(限定承認)か、あるいは相続そのものを拒否する(相続放棄)かを選択することができます。
● 相続放棄とは
相続放棄とは、家庭裁判所に対して所定の申述を行うことで、初めから相続人ではなかったものとみなされる制度です。相続放棄が認められると、プラスの財産を受け取れなくなる代わりに、借金などのマイナスの財産を引き継ぐ義務からも解放されます。相続人一人ひとりが単独で行うことができ、他の相続人の同意が必要ない点がこの制度の特徴です。
相続放棄をすると、その相続人は初めから相続人ではなかった扱いになるため、代襲相続も発生しません。次の順位の相続人(被相続人の直系尊属や兄弟姉妹など)に相続権が移っていくことになるため、自分が相続放棄をすることで、他の親族に影響が及ぶ可能性がある点もあわせて意識しておく必要があります。
● 限定承認とは
限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の限度でのみ、被相続人の債務を弁済することを条件に、相続を承認する制度です。相続財産にプラスとマイナスのどちらが多いか判然としない場合に有効な選択肢ですが、相続人全員が共同で申述する必要があり、手続きも比較的複雑です。
限定承認は、単純承認(無限に責任を負う)と相続放棄(プラスの財産も一切受け取れない)の、いわば中間的な選択肢と位置づけられます。相続人の一人でも反対すると利用できないという制約があるため、利用を検討する場合は、早い段階で他の相続人と話し合いを進めておく必要があります。
● 相続放棄や限定承認には期限がある
相続放棄も限定承認も、自己のために相続の開始があったことを知った時から、原則として3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。この3か月の期間は一般に「熟慮期間」と呼ばれ、相続人がこの期間内に何もしなければ、単純承認をしたものとみなされてしまいます。相続財産の調査や、相続人間での話し合いに時間がかかることも多く、この期限は実務上、多くの相続人にとって大きなプレッシャーになっています。
葬儀や各種の届出、遺品整理など、相続開始後には限られた時間の中でやるべきことが数多くあります。その慌ただしさの中で、3か月という期間はあっという間に過ぎてしまうことも珍しくありません。「まだ何も決めていないうちに期限が迫っている」という状況に陥る相続人は、決して少なくないのです。
相続放棄の期限をすぎるとどうなる?
● 相続放棄の期限をすぎるとどうなる?
熟慮期間である3か月を過ぎても相続放棄や限定承認の手続きを取らなかった場合、相続人は単純承認をしたものとみなされます(法定単純承認)。これにより、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金など)についても、無限に承継したことになります。いったんこの状態になると、後から「やはり相続放棄したい」と思っても、原則として手続きを取ることはできません。
これは、相続の承認や放棄は、いったん行うと原則として撤回できないという法律上のルールなどに基づくものです。相続に関する法律関係を早期に確定させ、被相続人の債権者や、他の相続人など利害関係人の立場を安定させるために設けられている仕組みです。
● 「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは
熟慮期間の起算点となる「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、単に被相続人が亡くなった事実を知っただけでは足りず、それによって自分が相続人になったことを知った時を指すとされています。この起算点の考え方は、実務上しばしば争いになるポイントでもあり、「いつから3か月をカウントすべきか」という問題は、期間の伸長を検討するうえでも重要な前提知識になります。
たとえば、先順位の相続人が相続放棄をしたことで、次順位の相続人としての立場が生じた場合には、その事実を知った時から3か月がカウントされることになります。
また、相続財産が全く存在しないと信じており、そのように信じたことについて相当な理由があると認められる特別な事情がある場合には、通常の起算点とは異なる時点から熟慮期間が数えられることもあります。もっとも、こうした例外的な扱いが認められるかどうかはケースバイケースの判断となるため、安易に期待すべきものではありません。
たとえば、長年疎遠だった親族が亡くなり、相続財産が全くないと思い込んでいたところ、後になって多額の借金の存在が発覚した、というようなケースでは、この例外的な扱いが問題となることがあります。ただし、こうした主張が認められるかどうかは、個別の事情を丁寧に検証したうえでの判断となるため、実際に直面した場合には専門家に相談することをおすすめします。
● とはいえ3か月では判断できないことも
被相続人の財産状況が複雑であったり、財産が全国各地に散らばっていたり、相続人の所在確認に時間がかかったりする場合、3か月という期間内に単純承認・限定承認・相続放棄のいずれを選ぶべきか、十分な判断材料が揃わないことがあります。特に、被相続人が事業を営んでいた場合や、保証人になっていた可能性がある場合には、負債の全体像を把握するだけでも相応の時間を要します。
金融機関への照会や、不動産の調査、負債の有無の確認などは、一つひとつに時間がかかるものです。複数の窓口へ問い合わせをしながら並行して進めても、3か月という期間内にすべての調査を終えるのが難しいケースは、実務上決して珍しくありません。
こうした場合に活用できるのが、次に説明する「熟慮期間の伸長」という制度です。
相続の承認又は放棄の期間(熟慮期間)の伸長
● 相続の承認又は放棄の期間(熟慮期間)の伸長とは
相続の承認又は放棄の期間の伸長とは、相続人が3か月の熟慮期間内に相続財産を調査しても、単純承認・限定承認・相続放棄のどれを選択するか判断できない場合に、家庭裁判所に申し立てることで、その期間を延ばしてもらう制度です。
相続放棄や限定承認は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に手続きをする必要があります。しかし、相続財産の調査には時間がかかることがあり、3か月だけでは判断に必要な情報を集めきれないケースもあります。
たとえば、被相続人が複数の金融機関に預金を持っていたり、不動産を全国各地に所有していたり、事業上の借入れや保証債務などが存在したりすると、財産や債務の全体像を把握するまでに時間がかかることがあります。
このような場合に、家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てることで、相続について判断するための時間を確保することができます。
● 期間の伸長に必要な手続き
熟慮期間を延ばしたい場合には、家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てを行う必要があります。申立てができるのは、相続人を含む利害関係人や検察官です。
重要なのは、3か月の熟慮期間が経過する前に申立てを行う必要があるという点です。「あと数日で3か月が経ってしまう」というギリギリのタイミングで申立ての準備を始めると、必要書類が間に合わなかったり、申立て自体が期限に間に合わなかったりするリスクがあります。判断に迷っている段階で、少しでも期限内に間に合わない可能性が見えてきたら、できるだけ早く申立ての準備に着手することが大切です。
また、期間の伸長を申し立てただけで、自動的に期間が延長されるわけではありません。家庭裁判所が申立ての内容を審理したうえで、期間を伸長するかどうかを判断します。
● 期間の伸長が認められる要件
期間の伸長が認められるかどうかは、家庭裁判所が個別の事情を踏まえて判断します。
特に、3か月以内に相続財産を調査したものの、なお相続を承認するか放棄するかを判断するための資料が十分に得られない場合には、期間の伸長を申し立てることができます。裁判所も、相続財産の状況を調査しても判断できない場合を、期間伸長の制度を利用する場面として案内しています。
たとえば、次のような事情が考えられます。
- 相続財産が多く、調査に時間がかかっている
- 被相続人が遠方に複数の不動産を所有している
- 預貯金や証券などの財産調査が終わっていない
- 借入金や保証債務など、債務の全体像を把握できていない
- 相続人が遠方に住んでいるなどの事情により、必要な調査や確認に時間がかかっている
単に「まだ決められない」というだけではなく、なぜ3か月以内に判断できないのか、現在どのような調査を行っているのかなど、具体的な事情を申立書に記載することが重要です。
● 期間の伸長の注意点
期間の伸長を申し立てる際に、特に注意しておきたい点が3つあります。
1つ目は、この申立ては、必ず熟慮期間である3か月が経過する前に行わなければならないという点です。期限を過ぎてしまうと単純承認をしたものとみなされるため、期限を過ぎてしまいそうな場合には忘れずに伸長の申立てをしましょう。
2つ目は、期間の伸長は、申立てをした相続人についてのみ効果が生じるという点です。相続人が複数いる場合、ある相続人が期間の伸長を申し立てても、他の相続人の熟慮期間が自動的に延びるわけではありません。相続人全員が期間を延ばしたい場合には、それぞれが個別に申立てを行う必要があります。
3つ目は、伸長される期間は事案によって異なり、家庭裁判所の判断によって決まるという点です。申立人が希望する期間がそのまま認められるとは限らないため、現在の財産調査の状況や、あとどの程度の期間が必要なのかを具体的に説明することが大切です。
相続人が複数いる場合には、誰が伸長を申し立てる必要があるのかを、早めに整理しておくことも重要です。「自分は申し立てたが、他の相続人は申し立てていなかった」ということになると、相続人ごとに熟慮期間の状況が異なってしまい、その後の遺産分割協議などの手続きにも影響が及ぶ可能性があります。相続人間で情報を共有しながら、必要な相続人全員が漏れなく手続きを取れるよう、注意を払っておきましょう。
申立ての方法と流れ
● 期間の伸長の手続きの流れ
期間の伸長の申立ては、おおむね次のような流れで進みます。
- 必要書類の準備
- 申立書の提出
- 裁判所の審査
- 期間伸長の決定
相続放棄そのものの申述に比べると、必要な書類や手続きの負担は軽い傾向にありますが、期限内に確実に完了させる必要があるため、それぞれのステップについて、順に確認していきましょう。
● その1:必要書類の準備
まず、申立てに必要な書類を準備します。具体的には、申立書のほか、被相続人の住民票除票または戸籍の附票、申立人(相続人)との相続関係を示す戸籍謄本などが必要になります。あわせて、相続人1人あたり800円分の収入印紙や、裁判所からの連絡用の郵便切手も用意します。
申立書の書式や必要書類の詳細は、家庭裁判所のホームページにて公開されています。
相続放棄の申述と比べると、期間の伸長の申立てに必要な書類は比較的少なく、準備にかかる時間も短くて済むことが多いですが、期限が迫っている中での対応となるケースが多いため、必要書類のリストを早めに確認し、効率よく準備を進めることが大切です。
● その2:申立書の提出
必要書類が整ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立てを行います。申立書には、期間の伸長を必要とする具体的な理由(相続財産の調査に時間がかかっていることなど)を、できるだけ具体的に記載することが望ましいでしょう。
申立ての際には、伸長を希望する期間についても記載します。「あとどれくらいの期間があれば判断できそうか」という見通しを、財産調査の進捗状況などを踏まえて具体的に検討しておくと、申立書の作成もスムーズに進みます。
● その3:裁判所の審査
申立てを受けた家庭裁判所は、提出された書類の内容をもとに、期間の伸長を認めるべき事情があるかどうかを審査します。特別な事情がない限り、書面審査のみで手続きが進むことが多く、相続放棄の申述に比べても、比較的短期間で結果が出ることが一般的です。
裁判所によって審理に要する期間は異なります。また、必要に応じて追加の書面提出を求められたり、事情を確認されたりする場合があります。余裕をもったスケジュールで申立てを行うことが望ましいでしょう。
● その4:期間伸長の決定
裁判所が期間の伸長を認めると、審判によって新たな期限が示されます。この新しい期限までに、あらためて単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択することになります。伸長後の期限内にも判断がつかない場合には、再度の伸長を申し立てることも検討できますが、前述のとおり、具体的な理由が求められる点に留意しておきましょう。
伸長が認められた後は、あらためて相続財産の調査を進め、伸長された期間内に方針を固めていくことになります。期限に余裕ができたからといって調査を先延ばしにしてしまうと、結局また期限直前になって慌てることになりかねません。伸長された期間を有効に活用し、計画的に調査・検討を進めることが大切です。
● 申立ては司法書士・弁護士どちらに依頼できる?
期間の伸長の申立てについては、司法書士や弁護士に相談することができます。
司法書士は、申立書など家庭裁判所に提出する書類の作成や、必要書類の収集をサポートすることができます。ただし、家事事件について本人に代わって代理人として手続きを行うことはできません。申立ては相続人ご本人が行い、司法書士はそのための書類作成などを支援する形になります。
一方、弁護士は、代理人として家庭裁判所での手続きを行うことができます。また、相続人間で遺産の帰属をめぐる対立がある場合や、債権者との交渉など、紛争性のある事案では、弁護士への相談が適している場合があります。
まとめ
相続の承認又は放棄の期間の伸長とは、いわゆる「熟慮期間」である3か月以内に相続財産の全容が把握できない場合などに、家庭裁判所へ期間延長の申立てを行う手続きです。大阪市でも、被相続人の財産調査に時間がかかる場合や、遠方の相続人がいる場合など、現実的に期間内の判断が難しいケースが多く見られます。
この申請は、相続を承認すべきか放棄すべきか迷っている方にとって、冷静な判断を下すための重要な手段となります。家庭裁判所への申立てが認められることで、追加の調査や検討を行う時間的余裕を得ることができます。
一方で、期間の伸長が認められるかどうかは、相続財産の調査状況などを踏まえて家庭裁判所が判断します。申立ての理由を具体的に説明できるよう、現在の調査状況などを整理しておくことが大切です。

