空き家特例とは? 最大3,000万円を控除できる制度の基本を解説
2026/09/15
親が亡くなり、実家を相続したものの、誰も住む予定がなく、そのまま空き家になっているというケースがあります。
このような相続した空き家を売却した場合、一定の要件を満たすことで、売却によって生じた譲渡所得から最高3,000万円を控除できる「空き家特例」を利用できる場合があります。
本記事では、空き家特例の制度の概要や適用要件、控除による税負担への影響、利用する際の注意点、確定申告の方法などについて分かりやすく解説します。
目次
空き家特例とは?
● 制度の概要
空き家特例とは、相続または遺贈によって取得した、亡くなった方が住んでいた一定の空き家を売却した場合に、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。正式には、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」といいます。
土地や建物を売却して利益が出た場合、その利益は原則として「譲渡所得」として所得税や住民税の課税対象となります。
譲渡所得は、単純に「売却価格-購入価格」で計算するわけではありません。基本的には、次の計算式で算出します。
譲渡所得
=譲渡価額(不動産を売却した金額)
-取得費(その不動産の購入代金や購入時の仲介手数料などから、建物についての減価償却費相当額などを差し引いて計算した金額)
-譲渡費用(売却時に支払った仲介手数料など、売却のために直接かかった費用)
このように計算した譲渡所得から、一定の要件を満たす場合に3,000万円を控除できます。つまり、3,000万円控除は、不動産の売却価格から3,000万円を差し引く制度ではなく、売却によって生じた譲渡所得から最高3,000万円を差し引く制度なのです。
たとえば、相続した実家を3,000万円で売却し、取得費や譲渡費用を差し引いた結果、譲渡所得が2,000万円になったとします。この場合、空き家特例を利用できれば、2,000万円から最高3,000万円を控除できるため、課税対象となる譲渡所得を0円にすることができます。
ただし、空き家特例は「相続した空き家なら何でも対象になる」という制度ではありません。建物の建築時期や相続直前の利用状況、相続後の利用状況、売却時期など、さまざまな要件を満たす必要があります。
● 控除を受けられる理由
なぜ、相続した空き家を売却した場合に、このような大きな控除が認められているのでしょうか。
相続した実家が空き家となったまま放置されると、建物の老朽化や管理上の問題などにつながることがあります。そこで、相続した空き家の売却や建物の除却・耐震化を促すため、一定の要件を満たす場合に譲渡所得から特別控除を受けられる制度が設けられています。
そのため、単に「相続した不動産を売却したから」という理由だけで利用できるわけではなく、一定の古い家屋であることや、相続後に空き家として維持されていることなど、制度の趣旨に沿った要件が定められています。
● 居住用不動産の3,000万円控除との違い
空き家特例とよく似た制度に、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除があります。どちらも、一定の要件を満たすことで譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度ですが、対象となる不動産や利用できる人が異なります。
居住用不動産の3,000万円控除は、基本的に売却する本人が住んでいたマイホームを売却した場合に利用する制度です。一方、空き家特例は、亡くなった方が住んでいた家を相続した相続人が、その空き家を売却する場合に利用する制度です。
たとえば、父が住んでいた実家を子どもが相続し、その後誰も住まないまま売却するケースでは、子ども自身がその実家に住んでいなければ、通常の居住用不動産の3,000万円控除は利用できません。このような場合に、空き家特例の適用が問題になります。
両者は似ているものの、適用要件は大きく異なるため、相続した実家を売却する場合には、どちらの制度が対象となるのかを確認することが大切です。
控除の適用要件
● 適用要件まとめ
空き家特例を利用するためには、さまざまな要件を満たす必要があります。
代表的なものをまとめると、次のとおりです。
- 相続または遺贈によって、被相続人居住用家屋およびその敷地等を取得していること
- 相続した空き家が一定の要件を満たしていること
- 相続後、売却までの間に、家屋や敷地を事業・賃貸・居住などに使用していないこと
- 相続開始から一定期間内に、1億円以下の代金で売却すること
以下、それぞれ詳しく説明します。
● 相続または遺贈によって、被相続人居住用家屋およびその敷地等を取得していること
空き家特例を利用するためには、売却する被相続人居住用家屋およびその敷地等を、相続または遺贈によって取得している必要があります。たとえば、父が住んでいた実家を父の死亡後に子どもが相続し、その家屋と敷地を売却する場合が典型的なケースです。一方、相続した後にその不動産をいったん他の人へ贈与し、その人が売却する場合など、相続または遺贈によって取得した人が売却するケースとは異なる場合には、空き家特例の対象となるか注意が必要です。
また、相続人が複数いる場合には、誰が家屋や敷地を取得したのかも重要です。たとえば、兄と弟の2人が実家を相続し、その後、兄が実家を売却する場合には、兄がその家屋と敷地等を相続によって取得していることなどを確認する必要があります。
一方、遺産分割の結果、家屋は兄、敷地は弟というように、家屋と敷地を別々の相続人が取得している場合には、売却する人が家屋と敷地等を相続または遺贈によって取得したという要件を満たすかどうかについて、特に注意が必要です。
相続した不動産を売却する場合には、遺産分割協議書や登記事項証明書などを確認し、誰が家屋と敷地等を取得したのかを整理しておくことが大切です。
● 相続した空き家が一定の要件を満たしていること
空き家特例の対象となる家屋には、建築時期などについて細かな要件があります。
主な要件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物登記がされている建物ではないこと
- 相続開始直前に、被相続人以外にその家屋に住んでいた人がいなかったこと
- 売却する家屋について、一定の耐震基準を満たしていること、または一定の期限までに耐震改修や取壊しを行うこと
つまり、比較的古い一戸建ての実家などが主な対象となります。
たとえば、父が昭和50年に建築した一戸建てに住んでいて、父の死亡後に子どもが相続したケースであれば、他の要件も満たすことで空き家特例の対象となる可能性があります。一方、昭和60年に建築された家屋など、建築時期の要件を満たさない場合には、原則としてこの特例を利用できません。
また、相続開始直前に被相続人と一緒に子どもなどが住んでいた場合も、原則として対象外となります。
● 相続後、売却までの間に、家屋や敷地を事業・賃貸・居住などに使用していないこと
空き家特例では、相続した後の家屋や敷地の利用状況も重要です。
原則として、相続してから売却するまでの間に、家屋や敷地を、
- 自分が住む
- 他人に貸す
- 事業に使用する
といった方法で利用してはいけません。
たとえば、父の死亡後に実家を相続した子どもが、その実家を1年間自分の住居として使用した後に売却した場合、原則として空き家特例を利用することはできません。また、相続した実家を賃貸住宅として第三者に貸し出した場合も、原則として対象外となります。
「誰も住んでいないから空き家」というだけではなく、相続後から売却までの間、どのように使用されていたかが重要です。
● 相続開始から一定期間内に、1億円以下の代金で売却すること
空き家特例には、売却できる期間と売却代金についても要件があります。
まず、原則として、相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。たとえば、2026年5月10日に相続が開始した場合、2029年12月31日までが期限となります。また、現行制度では、特例の対象となる譲渡そのものについて、2027年12月31日までという制度上の期限も設けられています。この期限は今後延長される可能性もあるため、事前に確認しておきましょう。
さらに、売却代金については、1億円以下であることが必要です。ここで注意したいのは、今回の売却代金だけを見ればよいとは限らないことです。たとえば、相続した土地の一部を先に売却し、その後に残りの土地を売却する場合などには、それぞれの売却代金を合計して1億円以下かどうかを判断することがあります。また、他の相続人が同じ被相続人から相続した家屋や敷地等を売却した場合、その売却代金も判定に含まれることがあります。そのため、相続した不動産を分割して売却する場合には、最終的な売却代金の合計額にも注意が必要です。
控除の効果
● 譲渡所得からの控除
空き家特例を利用すると、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
たとえば、相続した実家を売却した結果、譲渡所得が2,500万円になったとします。この場合、2,500万円-3,000万円=0円以下となり、課税対象となる譲渡所得を0円にすることができます。
一方、譲渡所得が4,000万円だった場合には、4,000万円-3,000万円=1,000万円となり、この1,000万円が、原則として課税対象となります。
空き家特例は「売却価格から3,000万円を差し引く制度」ではありません。あくまで、取得費や譲渡費用を差し引いて計算した譲渡所得から最高3,000万円を控除する制度なのです。
※ なお、ここでいう「税金が0円」とは、空き家控除の対象となる譲渡所得についての所得税・住民税が0円になるという意味です。不動産の売却には、譲渡所得に対する税金以外にも、契約書の印紙税などが関係する場合があります。
● 相続人の数による控除額の違い
空き家特例では、相続人の人数によって控除できる金額が変わる場合があります。
令和6年1月1日以後の譲渡について、被相続人の居住用家屋とその敷地等を相続または遺贈によって取得した相続人が3人以上いる場合には、控除額の上限が3,000万円ではなく2,000万円となります。
相続人が複数いる場合には、自分だけでなく、他の相続人がどのように不動産を取得・売却するのかも関係するため注意が必要です。
● 所有期間による税率への影響
空き家特例については、その家の所有期間の長短に関係なく利用できます。
しかし、所有期間は、控除後に残った譲渡所得に対する税率に影響します。
土地や建物を売却した場合、その不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかによって、「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に区分されます。
一般的には、
- 所有期間が5年を超える → 長期譲渡所得
- 所有期間が5年以下 → 短期譲渡所得
となります。
そして、短期譲渡所得の方が長期譲渡所得よりも税率が高く設定されています。
通常の税率は、復興特別所得税を除いて考えると、長期譲渡所得では所得税15%・住民税5%、短期譲渡所得では所得税30%・住民税9%です。
復興特別所得税を含めた場合、実際の税率は、
- 長期譲渡所得:約20.315%
- 短期譲渡所得:約39.63%
となります。
同じ1,000万円の譲渡所得でも、所有期間によって税負担が変わるのです。
なお、相続した不動産については、相続人が相続した時からではなく、原則として被相続人がその不動産を取得した時からの所有期間を引き継いで判定します。そのため、例えば親が30年間所有していた実家を子どもが相続し、相続から2年後に売却した場合でも、所有期間は原則として30年余りとして判定されます。
適用にあたっての注意点
● 相続した後に家を貸したり、住んだりすると原則として対象外になる
空き家特例を利用する場合、相続した後の家の使い方には特に注意が必要です。
相続後から売却までの間に、その家を自分の住居として使用したり、第三者に貸したり、事業に使用したりすると、原則として特例の対象外となります。
「売却するまでの間だけ、少しだけ貸した」という場合でも、空き家特例の適用に影響する可能性があります。
相続した実家をどうするか迷っている場合には、売却する可能性があることを考慮し、賃貸などを始める前に専門家へ確認しておくことが大切です。
● 相続した家屋を取り壊して売却する場合の注意点
空き家特例では、家屋を取り壊して土地だけを売却する方法もあります。
ただし、家屋を取り壊せば自動的に特例を利用できるわけではありません。
相続から取壊しまでの間に家屋を貸したり、住居として使用したりしていないことや、取壊し後から売却までの間に土地を建物や構築物の敷地として使用していないことなど、細かな要件があります。
なお、令和6年1月1日以後の譲渡については、売却時点で家屋を取り壊していなくても、売却後、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに一定の耐震改修や取壊しを行うことで、特例の対象となる場合があります。たとえば、売買契約に基づいて買主が家屋を取り壊すケースなどです。
家屋を取り壊すには解体費用もかかるため、「更地にしてから売るのか」「家屋を残したまま売るのか」についても、売却価格や税金などを含めて検討する必要があります。
● 老人ホーム等に入所していた場合の特例
被相続人が亡くなる前に老人ホーム等へ入所していた場合、実家が空き家になっていることがあります。
このような場合でも、要介護認定等を受けていたことなど、一定の要件を満たしていれば、老人ホーム等へ入所する前に住んでいた家屋について空き家特例を利用できる場合があります。
ただし、老人ホームへの入所であれば必ず対象になるわけではありません。
入所の理由や入所前後の家屋の使用状況などについて、細かな要件が定められています。
そのため、「亡くなる前に老人ホームに入っていたから対象外」と簡単に判断するのではなく、具体的な事情を確認することが大切です。
● 他の特例との関係
空き家特例以外にも、相続した不動産に関係する税制上の特例があります。
たとえば、相続税が課税された場合には、一定の要件を満たすことで、相続税の一部を不動産の取得費に加算して譲渡所得を計算できる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」があります。
また、小規模宅地等の特例は相続税の計算に関する制度であるのに対し、空き家特例は不動産を売却した際の譲渡所得に関する制度です。そのため、それぞれの要件を満たしていれば、相続税の計算では小規模宅地等の特例を利用し、売却時には空き家特例を利用できる場合があります。
ただし、相続税の取得費加算の特例については、空き家特例との併用に制限があります。相続した不動産を売却する場合には、「3,000万円控除が使えるか」だけでなく、相続税の申告時にどの特例を利用したのかも確認し、利用できる制度を整理することが大切です。
申告の方法
● 確定申告が必要
空き家特例を利用するためには、原則として確定申告が必要です。
「空き家特例を利用すると税金が0円になるから、申告もしなくていい」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、空き家特例は自動的に適用される制度ではありません。特例を利用するためには、必要な書類を準備して、確定申告を行う必要があります。
空き家特例を適用した結果、課税される譲渡所得が0円になる場合でも、特例を利用するための申告が必要です。そのため、相続した空き家を売却した場合には、売却益が少ないからといって確定申告が不要だと自己判断しないようにしましょう。
● 必要書類
空き家特例を利用する場合には、売却した不動産や相続の内容、空き家の状況などを確認するための書類が必要です。
具体的には、ケースに応じて、以下のような書類を準備します。
- 譲渡所得の内訳書
- 不動産の売買契約書
- 登記事項証明書など、不動産の内容を確認できる書類
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 耐震基準適合証明書や建設住宅性能評価書の写し(家屋を残して売却し、耐震基準への適合を証明する場合など)
必要書類は、売却した不動産の状況によって異なります。また、共有名義の場合や、家屋を取り壊して土地を売却した場合なども、追加の確認が必要になることがあります。そのため、売却した不動産に関する書類は、契約書や領収書を含めてできるだけ保管しておくことが大切です。
● 「被相続人居住用家屋等確認書」とは?
空き家特例を利用する場合には、原則として、売却した不動産の所在地を管轄する市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受ける必要があります。
この確認書は、相続開始直前の家屋の利用状況や、相続後から売却までの利用状況などについて、市区町村が確認したことを証明する書類です。たとえば、「亡くなった方が実際にその家に住んでいたか」「相続開始直前に他の人が住んでいなかったか」「相続後に事業や賃貸、居住に使用されていなかったか」などが確認されます。
そのため、確定申告の直前になって準備するのではなく、売却を検討する段階で市区町村に必要な手続きを確認しておくと安心です。
● 申告期限
空き家を売却した場合の譲渡所得の確定申告は、原則として、不動産を売却した日の属する年の翌年2月16日から3月15日までに行います。
ただし、具体的な申告期間は年によって変わる場合があるため、実際に申告する際には国税庁の最新情報を確認しましょう。
また、空き家特例を利用する場合には、確定申告だけでなく「被相続人居住用家屋等確認書」などの準備にも時間がかかることがあります。
売却が決まった段階で、必要な書類や期限を確認しておくことが大切です。
まとめ
空き家特例は、相続した実家など一定の要件を満たす空き家を売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。
ただし、建築時期や相続直前の利用状況、相続後の家の使用状況、売却期限など、さまざまな要件があります。また、相続人が3人以上の場合には、控除額が最高2,000万円となる点にも注意が必要です。
相続した実家を売却する場合には、「自分の場合は空き家特例を利用できるのか」「家を取り壊してから売ったほうがよいのか」など、判断が難しいケースもあります。利用できる特例や必要な手続きについて迷う場合には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

