受益者連続型信託での「30年ルール」とは?
2026/09/22
家族信託では、信託した財産を自分の子どもや孫など、複数の世代にわたって承継させる仕組みをつくることができます。たとえば、「自分が亡くなった後は妻、その後は長男、長男が亡くなった後は孫に財産を引き継ぐ」といった設計です。
このような仕組みを「受益者連続型信託」といいます。
ただし、制限なく何代にもわたって指定できるわけではありません。受益者連続型信託には、信託法によって「30年ルール」と呼ばれる期間の制限が設けられています。
本記事では、受益者連続型信託の基本から、30年ルールの意味や具体的な仕組み、利用する際の注意点まで、わかりやすく解説します。
目次
受益者連続型信託とは?
● そもそも「受益者」とは?
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族などに託し、その財産を管理・運用・処分してもらう仕組みです。
この家族信託では、「委託者」「受託者」「受益者」という3つの立場が登場します。
- 委託者:財産を信託する人
- 受託者:信託された財産を管理・処分する人
- 受益者:信託財産から利益を受ける人
たとえば、父親が自宅を信託し、子どもに管理を任せる場合、父親が委託者、子どもが受託者となります。そして通常の家族信託では、委託者が引き続き信託財産から利益を受け続けるため、父親は「委託者兼受益者」となります(この利益とは、居住権や家賃収入、売却益などのことです)。
このように、受益者とは、簡単にいうと、信託財産から生じる利益を受ける人です。
委託者と受益者が同一となる多くの家族信託では、財産から利益を受ける人が信託の前後で変わらないため、信託を設定したこと自体による贈与税は通常発生しない点も特徴です。
● 受益者連続型信託の仕組み
受益者連続型信託とは、当初の受益者が亡くなったときなどに、次の人が受益者となるように定めた信託です。
たとえば、父親が自宅を信託し、
- 「父親が亡くなった後は妻を受益者とする」
- 「妻が亡くなった後は長男を受益者とする」
- 「長男が亡くなった後は孫を受益者とする」
というように、受益者を順番に指定することができます。
このような仕組みを利用することで、財産を誰に承継させるのかだけでなく、その次の世代、そのまた次の世代まで見据えて財産の承継方法を決めることができるのです。
● 遺言では難しい「次の次の承継先」も指定できる
通常の相続では、遺言を残すことで「自分が亡くなった後」に誰が財産を取得するのかは決められますが、「さらにその人が亡くなった後」に誰が取得するのかまでを遺言で指定することはできません。
一方、受益者連続型信託では、信託契約のなかで、「自分の次は妻、その次は長男」というように、複数の世代にわたる受益者をあらかじめ定めておくことができます。
ただし、受益者を制限なく何代先までも指定できるわけではありません。
そこで問題となるのが、受益者連続型信託の「30年ルール」です。
受益者連続型信託の「30年ルール」とは?
● 家族信託の30年ルールとは
このように、受益者連続型信託では、信託契約のなかで複数の世代にわたって受益者を定めることができます。
しかし、受益者の承継を何代先までも無制限に認めると、信託を設定した人の意思によって、将来の財産の承継先を長期間にわたって拘束することになってしまいます。
そこで信託法では、信託が設定されてから30年を経過した後に、受益者の死亡などによって次の受益者が受益権を取得した場合、その後の受益者の承継に一定の制限を設けています。これを「30年ルール」と呼びます。
具体的には、信託設定から30年を経過した後に、受益者の死亡などによって次の受益者が受益権を取得した場合、その受益者が死亡するまで、または受益権が消滅するまでの間は、その受益者に関する定めが効力をもちます。しかし、この受益者が最後となり、その後さらに別の人へ受益権を承継させることはできません。
要するに、30年を経過した後は、受益権の承継は一度しか行えないというのが、30年ルールの基本的な考え方です。
● 「30年たったら信託が終わる」という意味ではない
「30年ルール」と聞くと、「30年たったら信託は終わってしまうの?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、30年ルールは、「信託設定から30年が経過したら、信託そのものが終了する」という意味ではありません。
30年を経過した時点で、信託財産が自動的に受益者へ移ったり、信託が当然に終了したりするわけではありません。あくまで、30年経過後に受益者が変更された場合に、その後の受益者連続の定めについて一定の制限がかかるというルールです。
そのため、30年ルールを理解するうえでは、「30年経過後に誰が受益権を取得するのか」が重要になります。
● 30年経過後に受益者となった人が重要
30年ルールを理解するうえで重要なのが、「30年経過後に受益権を取得した人」です。
たとえば、父親が2026年に信託を設定し、「父親が亡くなったら妻」「妻が亡くなったら長男」「長男が亡くなったら孫」という受益者の承継を定めたとします。
信託設定から30年が経過するのは2056年です。
もし2056年より前に妻が亡くなり、長男が受益者となっていた場合、その後、2056年を過ぎてから長男が亡くなり、孫が受益者となるケースでは、30年経過後に受益権を取得する孫が死亡するまで、受益者連続の定めが効力をもつことになります。
そして、その孫が死亡すると、それより後の受益者への承継については、受益者連続の定めによって効力を維持することができません。
このように、30年ルールでは、単純に「30年後に信託が終わる」と考えるのではなく、30年を経過した後に誰が受益権を取得するのかが重要になります。
具体例でわかる「30年ルール」
● 父→妻→長男→孫→ひ孫と受益者を承継させるケース
たとえば、2026年に父親が自宅を信託し、受益者を「父親→妻→長男→孫→ひ孫」と順番に指定したとします。
その後、次のように受益者が変更されたとします。
- 2026年:信託を設定。父親が受益者となる
- 2035年:父親が死亡し、妻が受益者となる
- 2045年:妻が死亡し、長男が受益者となる
- 2056年:信託設定から30年が経過する
- 2057年:長男が死亡し、孫が受益者となる
この場合、孫が受益権を取得したのは、信託設定から30年が経過した後です。
このように、30年を経過した後に受益者が変更された場合でも、受益権の承継が一切認められなくなるわけではありません。30年経過後に受益権を取得した孫については、その孫が死亡するまで、受益者連続の定めが効力をもちます。
● 孫が30年経過後に亡くなった場合は?
では、その後、孫が亡くなった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、孫は30年経過後に受益権を取得しているため、孫の死亡によって、さらにひ孫を受益者とするという定めについては、30年ルールによる制限を受けることになります。
つまり、30年経過後に受益者となった孫については、その後も受益者であり続けることができますが、孫の次の世代まで受益者連続の仕組みを続けることはできません。
このように、30年ルールでは、30年を経過する時点で誰が受益者となっているのかを確認することが重要です。
30年ルールが設けられている理由
● 財産の承継先を長期間にわたって拘束できてしまう
なぜ受益者連続型信託には、このような期間の制限が設けられているのでしょうか。
受益者連続型信託を利用すると、自分が亡くなった後だけでなく、その次の世代、そのまた次の世代についても、財産の承継先を現在の所有者の意思によって決めることができます。
つまり、現在の財産所有者が、将来の世代の財産の行き先についても、長期間にわたって指定できることになります。
● 現在の意思をいつまでも優先させることには限界がある
もちろん、自分の財産を将来誰に承継させたいのかを決めておくことには、家族信託の大きなメリットがあります。
一方で、何十年、何世代にもわたって財産の承継先を固定できることになると、将来の家族関係や財産状況が大きく変わっていても、当初の意思による財産承継が続くことになります。
そこで、信託法では、受益者連続型信託について一定の期間制限を設け、現在の財産所有者の意思によって将来の財産承継を無制限に拘束することがないようにしています。
● 何代先まで承継させるのかを考える必要がある
受益者連続型信託を利用するときには、「誰に財産を渡したいのか」だけでなく、「どの世代まで承継させたいのか」も考えておく必要があります。
たとえば、「自分の次は妻、その次は長男に引き継げれば十分」という場合と、「自分から子、孫、ひ孫まで財産を承継させたい」という場合では、信託の設計が変わります。
特に、長期間にわたる承継を希望する場合には、30年ルールを踏まえて、受益者の指定方法や信託終了後の財産の帰属先まで含めて検討することが重要です。
30年ルールで注意したいポイント
● 「30年たったら信託が全部終わる」わけではない
30年ルールについて最も注意したいのは、「信託設定から30年が経過したら、信託そのものが終了する」という意味ではないという点です。
30年を経過した時点で、信託財産が自動的に受益者へ移ったり、信託が当然に終了したりするわけではありません。
30年経過後に受益権を取得する人が誰なのか、その人が亡くなったときにどのような定めが効力をもつのかを確認する必要があります。
● 信託終了後の財産の行き先も考えておく
受益者連続型信託では、受益者が順番に変わっていくことに目が向きがちですが、最終的に信託が終了したときに財産を誰に引き継ぐのかについても、あらかじめ考えておく必要があります。
たとえば、信託終了後の財産を子どもに引き継がせるのか、孫に引き継がせるのかなどによって、財産承継の結果は変わります。
そのため、受益者を何代にもわたって指定するだけでなく、「最後に信託財産を誰に帰属させるのか」まで含めて信託全体を設計することが大切です。
● 長期間の信託では家族の状況も変化する
受益者連続型信託は、長期間にわたって効力をもつ可能性があります。
その間に、受益者や受託者の死亡、家族関係の変化、財産の状況など、信託を設定した当時には想定していなかった事情が生じることもあります。
そのため、単に「何代先まで財産を渡すか」だけでなく、長期間にわたって信託を維持できる内容になっているかについても検討する必要があります。
まとめ
受益者連続型信託とは、ある受益者が亡くなった後、次の人が受益者となるように定めた信託です。自分の次の世代だけでなく、その次の世代まで財産の承継方法をあらかじめ決められることが特徴です。
ただし、受益者を何代先までも自由に指定できるわけではありません。信託法では、信託設定から30年を経過した後に受益権を取得した人について、その人が死亡するまで、または受益権が消滅するまでを一つの区切りとする「30年ルール」が定められています。
30年ルールは、「信託設定から30年が経過したら、信託が自動的に終了する」という意味ではありません。30年経過後に誰が受益権を取得するのかを確認し、その後の受益者連続の定めがどこまで効力をもつのかを考えることが重要です。
受益者連続型信託を利用する場合には、受益者の承継だけでなく、信託終了後に財産を誰に引き継ぐのかまで含めて、家族の将来を見据えた設計をする必要があります。複数の世代にわたる財産承継を考えている場合には、専門家に相談しながら信託の内容を検討するとよいでしょう。

