家族信託の帰属権利者とは? 遺言と家族信託の共通点・相違点を解説
2026/09/18
家族信託を検討していると、「帰属権利者」という言葉を目にすることがあります。
帰属権利者とは、信託が終了した後、清算を経て残った信託財産(残余財産)の帰属先として、信託行為で指定された人のことです。たとえば、「自分が亡くなった後は、信託していた自宅を長男に引き継ぎたい」という場合、長男を帰属権利者として指定しておくことで、信託終了後の財産の行き先をあらかじめ決めておくことができます。このような仕組みは、遺言による財産承継と共通する部分があります。
本記事では、家族信託の基本から帰属権利者の意味、遺言との共通点・相違点、帰属権利者を決める際の注意点まで、わかりやすく解説します。
目次
そもそも家族信託とは?
● 家族信託とは
家族信託(民事信託)とは、信頼できる家族が受託者となり、本人(委託者兼受益者)の意向に沿って、本人の財産を管理・運用・処分できる仕組みです。受託者はあくまで財産を預かるだけであり、財産から発生する利益は引き続き本人が受け続ける点が大きな特徴となっています。
たとえば、父親が自宅を所有しており、将来、認知症などによって自分で財産を管理することが難しくなることを心配しているとします。この場合、父親を「委託者兼受益者」、子どもを「受託者」とする信託契約を結び、自宅を信託財産とすることが考えられます。
信託を設定すると、自宅の名義は受託者である子どもに移りますが、子どもが自分の財産として自由に使えるようになるわけではありません。子どもは、信託の目的に従って、自宅を管理・処分することになります。
このように、家族信託では、「誰に財産を管理してもらうのか」「何のために財産を管理してもらうのか」といった意向をあらかじめ決めておくことができるのです。
● 家族信託の仕組み
家族信託には、主に次の3者が登場します。
- 委託者:財産を信託する人
- 受託者:信託された財産を管理・処分する人
- 受益者:信託財産から利益を受ける人
多くの場合、委託者と受益者は同一人物(親)、受託者は他の人(家族などの信頼できる人)が務めます。
この仕組みの最大の特徴は、財産の名義が受託者に移るものの、実質的な利益は受益者が受け取る点です。たとえば、不動産の名義を子(受託者)に変更しても、売却や賃貸により生じた利益は親(受益者)が受け取れるため、親の意向を尊重した財産管理が可能です。
● 家族信託のおおまかな流れ
家族信託を利用する場合、一般的には次のような流れになります。
まず、委託者が「誰に財産を管理してもらうのか」「どの財産を信託するのか」「何のために信託するのか」などを決めます。
内容が決まったら、委託者と受託者との間で信託契約を締結します。信託契約による信託は、原則として契約が締結されることで効力が発生します。なお、この際の契約書は、公正証書で作成することを推奨します。
その後、不動産を信託する場合には所有権移転登記など、信託財産に応じた必要な手続きを行います。預貯金などについても、金融機関で信託口口座を開設するなど、財産の種類に応じた手続きを行います。
信託の効力が発生した後は、受託者が信託契約の内容に従って財産を管理・運用・処分します。受託者は、自分の財産と信託財産を区別し、信託の目的に従って財産を管理する必要があります。
そして、信託契約で定めた終了事由(委託者兼受益者が亡くなるなど)が発生すると、信託は終了します。信託終了後は、受託者が清算を行い、信託財産に属する債務などを整理したうえで、残った財産を残余財産受益者や帰属権利者などに引き継ぎます(詳しくは後述)。
このように、家族信託では、財産を管理する人を決めるだけでなく、信託を終了した後の財産の行き先まであらかじめ決めておくことができます。
家族信託には「遺言」の機能も?
● 信託が終了すると、信託財産は誰のものになる?
家族信託を設定すると、受託者が信託財産を管理することになります。
では、信託が終了したとき、その財産は最終的に誰のものになるのでしょうか。
信託は、信託契約で定めた終了事由(たとえば、委託者兼受益者の死亡など)が発生した場合のほか、信託の目的を達成したときや、信託の目的を達成することができなくなったときなどにも終了します。
そして信託法では、信託が終了した場合の残余財産について、信託行為で「残余財産受益者」または「帰属権利者」となる人を指定できるとされています。
たとえば、父親が自宅を信託し、父親が亡くなったときに信託を終了させる契約を結んでいたとします。この場合、「信託終了後の自宅は長男に引き継ぐ」と定めておけば、信託終了後の財産の行き先をあらかじめ決めておくことができるのです。
● 信託財産の行き先をあらかじめ指定できる
家族信託では、信託契約を作成する段階で、信託終了後の財産の行き先を決めておくことができます。
たとえば、「父親が亡くなったら信託を終了し、信託終了後に残った自宅を長男に引き継ぐ」といった形で、信託終了後の財産の承継先を定めることができます。
このように、家族信託には、信託終了後の財産を誰に引き継ぐのかをあらかじめ決めておくという、遺言と似たような機能があります。
一方で、家族信託と遺言では、効力が発生する時期や対象となる財産などに違いがあります。これらの違いについては、後ほど詳しく説明します。
● 家族信託の「帰属権利者」とは
帰属権利者とは、信託が終了した際に、残余財産が帰属する者として信託行為で指定された人をいいます。
信託法では、残余財産について「残余財産受益者」と「帰属権利者」という2種類の立場が定められています。両者には細かな違いがありますが、一般的な家族信託では、委託者兼受益者の相続人や家族が「帰属権利者」として信託終了後に残った財産を受け取ることがあります。たとえば、父親が自宅を信託し、信託終了後の自宅を長男に取得させると定めていた場合、長男を帰属権利者として指定することが考えられます。
なお、信託行為で残余財産受益者や帰属権利者を指定していない場合などには、信託法上、委託者またはその相続人などが帰属権利者として指定されたものとみなされる場合があります。
● 信託終了後の財産の承継先を決められる
このように、家族信託では、現在の財産管理だけでなく、信託終了後の財産の承継先まで考えておくことができます。
たとえば、父親が自宅を信託し、父親が亡くなったときに信託を終了させ、その自宅を長男に引き継ぐという設計が考えられます。
そのため、家族信託を利用する際には、「今の財産を誰に管理してもらうか」だけでなく、「最終的に誰に財産を引き継ぐのか」まで考えることが重要です。
遺言と家族信託の「共通点」と「違い」
● 共通点:財産の承継先をあらかじめ決められる
遺言と家族信託には、どちらも自分の財産を将来誰に引き継ぐのかを、あらかじめ決めておけるという共通点があります。
たとえば、遺言で「自宅を長男に相続させる」と定めることができます。一方、家族信託でも「信託終了後の自宅を長男に帰属させる」と定めておくことで、信託終了後の財産の行き先を決めておくことができます。
ただし、家族信託の場合には、信託財産として指定した財産について、信託契約の内容に従って承継先を定めることになります(詳しくは後記「違いその2:対象となる財産の範囲」)。
そのため、「遺言があれば家族信託は必要ない」「家族信託があれば遺言は必要ない」と単純に考えるのではなく、それぞれの制度の特徴を理解して使い分けることが大切です。
● 違いその1:効力が発生するタイミング
遺言と家族信託では、効力が発生するタイミングが大きく異なります。
遺言は、原則として遺言者が亡くなったときに効力が発生します。一方、家族信託は、信託契約によって設定する場合には、原則として契約の締結によって効力が発生します。
そのため、家族信託では、本人が元気なうちから受託者に財産の管理を任せることができます。
たとえば、父親が将来、認知症などによって財産管理が難しくなることを心配している場合、元気なうちに子どもを受託者として信託契約を締結し、自宅や預貯金などを信託財産とすることが考えられます。
このように、遺言が主として「亡くなった後の財産承継」を定めるものであるのに対し、家族信託は、生前の財産管理から、信託終了後の財産承継までを一つの仕組みとして設計できる点に特徴があります。
● 違いその2:対象となる財産の範囲
遺言と家族信託では、対象となる財産の考え方も異なります。
遺言では、原則として遺言者が所有する財産について、誰にどのように承継させるのかを定めることができます。一方、家族信託では、信託契約の対象とした財産が信託財産となり、その財産について受託者が管理・処分を行います。
たとえば、自宅だけを信託した場合には、その自宅については信託の仕組みによって管理されますが、その他の預貯金や株式などは、別途対応を考える必要があります。
そのため、家族信託を利用するときには、「財産のうち何を信託するのか」を明確にしておくことが重要です。
● 違いその3:財産の引継ぎ方
遺言と家族信託では、財産を引き継ぐまでの仕組みも異なります。
遺言の場合、遺言者が亡くなった後、遺言の内容に従って財産を相続人や受遺者に承継させます。これに対して家族信託では、信託が終了すると、まず信託財産について清算を行います。
信託が終了しても、直ちにすべての手続きが完了するわけではありません。清算のために、信託財産に属する債権の回収や債務の弁済などを行い、最終的に残った財産を帰属権利者などに引き渡します。
このように、遺言と家族信託では、財産が最終的に承継されるまでの手続きにも違いがあります。
● 遺言執行者と清算受託者
財産の引継ぎ方について、補足します。
遺言によって財産を承継させる場合には、遺言の内容を実現するために「遺言執行者」が手続きを行うことがあります。たとえば、預貯金の解約や不動産の名義変更など、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行います。
一方、家族信託では、信託が終了すると、受託者が「清算受託者」として信託財産の清算を行います。清算受託者は、信託財産に属する債権を回収したり、信託財産に関する債務を弁済したりするなど、信託を終了させるために必要な清算事務を行います。
このように、「遺言執行者」と「清算受託者」は、名前も制度上の位置づけも異なりますが、どちらも財産を承継させるために必要な手続きを行うという点では、似たような役割を持っています。ただし、遺言執行者が遺言の内容を実現するのに対し、清算受託者は信託財産の清算を行ったうえで、残った財産を帰属権利者などに引き渡すという違いがあります。
実務上は、「遺言と家族信託を併用して、同一人物を遺言執行者にも清算受託者にも指定しておく」といったケースもみられます。
帰属権利者はどのように決める?
● まずは、信託終了後に財産を誰に引き継ぐかを考える
帰属権利者を決めるときは、まず、信託が終了した後に信託財産を誰に引き継ぎたいのかを考えます。
たとえば、自宅を信託した父親が亡くなった後、その自宅を長男に引き継ぎたいのであれば、長男を帰属権利者として指定することが考えられます。
このように、帰属権利者は、信託終了後の財産の承継先となる人です。そのため、家族信託を設計するときには、「最終的に誰に財産を引き継ぎたいのか」という点を明確にしておくことが重要です。
とはいえ、亡くなった後の財産の承継先を決める遺言とは異なり、家族信託では、信託の目的や受益者、信託終了の時期などと合わせて設計する必要があります。そのため、単純に「財産を渡したい人」を決めるだけではなく、信託全体の仕組みの中で帰属権利者を決めることが重要です。
● 誰にどの財産を承継させるのかを明確にする
帰属権利者を決める際には、「誰に渡すか」だけでなく、「何を渡すのか」も明確にしておきましょう。
たとえば、複数の不動産や預貯金を信託する場合に、「信託終了後はすべて長男に帰属させる」とするのか、「自宅は長男、その他の財産は次男に帰属させる」とするのかによって、財産の承継関係は大きく変わります。
また、帰属権利者に指定した人が先に亡くなった場合など、当初想定していた人が財産を取得できなくなった場合についても考えておく必要があります。
誰に、どの財産を、どのような場合に承継させるのかを具体的に定めておくことで、信託終了時のトラブルを防ぎやすくなります。
● 信託終了時の財産には相続税がかかることも
委託者兼受益者が亡くなったことによって信託が終了した場合、帰属権利者が取得する信託財産について、相続税の課税関係が生じることがあります。
たとえば、父親が自宅を信託し、父親が亡くなったときに信託を終了させ、その自宅を長男などの相続人に引き継がせる場合です。このような場合、相続人が取得した財産は、相続によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
一方、相続人ではない人を帰属権利者として指定し、その人が信託終了によって財産を取得する場合には、遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
このように、家族信託を利用したからといって、信託終了時の財産の取得について相続税がかからなくなるわけではありません。そのため、帰属権利者を決めるときには、誰に財産を承継させるのかだけでなく、相続税についても事前に確認しておくことが大切です。
● 信託する財産の範囲に注意
家族信託では、信託した財産と、信託していない財産を区別して考える必要があります。
たとえば、父親が所有する財産として、
- 自宅
- 賃貸マンション
- 預貯金
- 株式
があるとします。
このうち自宅だけを信託したのであれば、信託終了時に帰属権利者へ承継されるのは、原則としてその信託の対象となっている財産である自宅(すでに売却している場合は、その売却代金)のみです。
その他の財産については、遺言や遺産分割など、別の方法による承継を考える必要があります。
そのため、家族信託を利用する場合には、信託する財産と、それ以外の財産について、それぞれどのように承継させるのかを整理しておくことが重要です。
● 受託者の負担も考えておく
家族信託では、受託者が信託財産の管理や処分などを行うため、受託者に一定の負担が生じます。
たとえば、不動産を信託する場合には、受託者が賃貸物件の管理や修繕、売却などの手続きを行うことがあります。信託の期間が長くなれば、その分、受託者の負担も大きくなる可能性があります。
そのため、帰属権利者を決める際には、「誰が財産を受け取るのか」だけでなく、「誰が信託期間中の財産管理を担うのか」という点を考慮することも大切です。
たとえば、兄弟のうち一人を受託者として長期間にわたって財産の管理を任せる一方で、信託終了後の財産はすべて別の兄弟に承継させるような設計も考えられますが、このような場合には、受託者が担う管理や事務の負担と、最終的な財産の承継先とのバランスについて、家族で十分に話し合っておくことが重要です。
家族信託では、財産を最終的に誰に渡すかだけでなく、そこに至るまで誰が財産を管理するのかも含めて、家族全体の状況に合った設計を考える必要があります。
● 遺留分にも配慮する
家族信託を利用して財産の承継先を決める場合には、遺留分についても検討する必要があります。
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の相続財産の取り分です。
たとえば、父親が自宅などの財産を信託し、信託終了後の財産を特定の子どもだけに承継させる内容にした場合、他の相続人の遺留分との関係が問題となることがあります。
家族信託における遺留分の問題は、信託の内容や財産の状況などによって具体的な検討が必要です。「家族信託を使えば、遺留分を気にせず自由に財産を承継させられる」と考えるのではなく、相続人との関係や将来のトラブルまで考慮して信託の内容を決めることが大切です。
まとめ
家族信託では、信託終了後に残った財産を誰に引き継ぐのかを、あらかじめ決めておくことができます。その財産の帰属先として指定された人が「帰属権利者」です。
遺言も財産の承継先をあらかじめ決めておくことができるため、家族信託と似ている部分があります。一方で、家族信託は生前から受託者による財産管理を開始できることや、信託した財産を対象として管理・承継の仕組みを設計することなど、遺言とは異なる特徴があります。
また、帰属権利者を決める際には、財産の承継先だけでなく、税金や遺留分、受託者の負担などについても考えておく必要があります。
家族信託は、財産の管理と将来の承継を一体的に考えられる制度です。「誰に財産を引き継ぎたいのか」だけでなく、「誰に管理を任せたいのか」「どの財産を信託するのか」まで整理したうえで、自分や家族に合った仕組みを検討することが大切です。

